首都高改修の空中権活用。良案だが日本のインフラ問題を根本解決できるわけではない
政府の経済財政諮問会議において、老朽化した首都高速道路の改修に民間資金を活用する新しいスキームが検討されている。
検討されているのは、敷地上の空間を利用する権利である「空中権」の民間売却。半地下になっている首都高速上部に人工地盤を設置してあたらな土地を生み出し、その上部を利用する権利を周辺の事業者に売却する。
土地には容積率というものが定められており、一定の高さ以上の建物を建てることができない。だが容積率を下回る建物しか建てない場合には、余った容積率を他の土地に売却することができる。権利を購入した土地の所有者は規制以上の高さの建物を建築することが可能になるという仕組み。
この方法はJR東京駅の復元工事で利用され話題となった。
東京駅は復元工事終了後、そのままの姿で長期保存されることになる。東京駅の敷地が持っている容積率は余っており、これを丸ビルなど周辺の事業者に売却することで工事費を捻出した。
会議でプランを説明した太田昭宏国土交通相は「社会資本整備に民間資金を呼び込むことで公的負担を減らすことができる」としている。現在首都高には空中権の売却が可能とみられる部分が16%程度あり、まず手始めに銀座付近の空中権の売却を検討しているという。
首都高に対しては都市景観上からも問題を指摘する声が上がっており、地下化と空中権売却による資金捻出は一石二鳥といえるだろう。
ただ残念なことに、首都高の改修に必要な資金は1兆円を超えるといわれており、一部の空中権を売却しただけでは根本的な財源にはならない。また、このスキームは土地に対するニーズが強い超一等地でしか有効に機能しないという問題もある。
現在日本には、老朽化したインフラが山積しており、その劣化が著しいスピードで進んでいる。本来は、ある時点において新規建設を抑制し、既存インフラの維持管理に舵を切るべきであった。だが、目先の利益を優先し、維持しきれない道路や橋を全国に作ってしまった。
東京のように周辺の高度利用が見込めるわけではない地域の公共インフラについては、やはり国民負担に頼るしかないという状況に変わりはない(本誌記事「高速道路無料化は永遠に無理?高速3社が老朽化対策に10兆円必要との試算」参照)。
安倍首相も民間資金を活用した社会資本整備(PFI)を推進するよう強く求めており、今後、収益性のある公共インフラには民間の資金が導入される可能性が高まっている。だが民間資金が想定する事業期間と公共インフラが想定する事業期間にはかなりのズレがあり、民間資金を公共インフラに導入するのは容易ではないとの指摘もある(本誌記事「羽田・成田の地下鉄建設に年金と生保資金を活用。本当に大丈夫なのか?」参照)。
もともと公共インフラは、純粋な民間資金とは異なる次元での運用が必要であることから、税金で賄われてきたという経緯がある。民間資金の導入を検討する試みは評価できるが、ムダに作りすぎた公共インフラを国民負担なしで改修できるだろうという過度な期待は禁物である。
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