日本を批判したとされる朴槿恵大統領の議会演説はどう解釈すべきか?
訪米中の韓国の朴槿恵大統領は5月8日、上下両院の合同会議で演説した。前日のオバマ大統領との会談では、北朝鮮をめぐる米韓の微妙な方向性の違いが浮き彫りになっていたが、議会の演説では、自らが提唱する北朝鮮政策を全面的に展開した。
朴氏は北朝鮮問題に対する基本政策として「朝鮮半島信頼プロセス」と呼ばれるものを提唱している。これは、対話や人道支援で南北の信頼構築を目指すというもので、前李明博政権とはまったく異なるスタンスである。
これに対して米国は、基本的に朝鮮半島の非核化を最重要課題としており、北朝鮮に圧力をかけた上で、最終的には北朝鮮の経済開放を引き出すという戦略を掲げている。
直面する北朝鮮の脅威には一致して対処する点で米韓は一致しているものの、その後のプロセスについては微妙な方向性の違いがある。米朝による直接交渉を望んでいる米国にとっては、韓国独自の対話路線は時として邪魔になる可能性がある。韓国側の動きに中国が関与してくる可能性を懸念しているからだ。
前日の首脳会談は、双方とも相手のスタンスをまだ完全には把握しきれておらず、様子見ムードに終始した。だが議会演説ではうってかわって、独自のアジア戦略を積極的に主張する展開となった(本誌記事「朴槿恵大統領とオバマ大統領が初会談。双方に警戒感があり、様子見に終始」参照)。
演説では「強固な米韓同盟を前にして北朝鮮の挑発は完全に失敗している」と述べ、北朝鮮の恫喝外交に対して米韓が一致して取り組む姿勢を強調した。
続いて朴氏は「朝鮮半島信頼プロセスを進めていく」と述べ、北の挑発に対しては断固とした措置を取りつつ、人道的支援は政治状況とは関係なく実施すると強調した。
さらに朴氏は、朝鮮半島信頼プロセスに続く、北東アジア平和協力構想(ソウルプロセス)についても言及している。ソウルプロセスは東アジア全域の協力関係の構築を目指したものであり、ここには当然中国の存在が関係してくる。
韓国国内には、日本と同様、米国との同盟関係を強化すべきという勢力と中国との関係を強化すべきという勢力の対立がある。ソウルプロセスは中国との関係強化を主張する勢力を強く意識したものといえる(かつてはこれに日本との関係強化を主張する勢力も加わっていたが、現在は弱体化している)。
日本のマスメディアで取り上げられた「正しい歴史認識を持つべきだ」という日本批判の発言はこの文脈の中で発せられたものである。
今回の朴氏の議会演説は、個別にあまり意味のあるものではなく、朴政権の北朝鮮政策およびアジア政策に関する基本的な考えを、初めて対外的に表明する場であったと解釈すべきである。昨年から今年にかけて、東アジア主要国(日本、中国、韓国)の政権交代が相次いだが、ようやく各政権の基本戦略が出揃ってきた段階だ。本格的な攻防戦はこれからが本番である。
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