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ODAを使った新造巡視船のベトナム供与。場合によっては本末転倒にも

 

 政府は、中国と領有権争いをしているベトナムに対して、ODA(政府開発援助)を使って新造の巡視船を供与する方向で検討を開始した。

 産経新聞の報道によると、5月にハノイで開かれるベトナムとの海洋安全保障協議で、ベトナム側は中古の巡視船10隻の供与を日本側に求める意向だという。
 中国との領有権問題が激しさを増しており、海上兵力を増強することが狙い。

 これに対して日本側は、ODAの資金を活用し、中古ではなく新造の巡視船を供与する方向で検討する方針。だがベトナムの海上警察は軍の一部であることから、軍組織へのODA提供を禁じるODA大綱がネックになり、資金の手当てができなくなった。
 このため、ベトナムに対して、海上警察を軍から独立させるよう求めるという異例の措置が検討されている。外国政府に統治機構の改編を求めるのは極めて異例のことである。

 中国からの軍事的圧力にさらされているベトナムを支援することは重要だが、今回の措置は少々本末転倒な印象を受ける。中古巡視船の供与依頼をわざわざ断って新造船に切り替え、自国の予算制約をクリアするために、他国の統治機構に内政干渉するというのは少々やり過ぎである。ベトナム政府関係者は日本の本意を理解するだろうが、ベトナム国民がこの措置に完全に納得するという保証はない。

 このような一種のウルトラCが出てくる背景には、日本の防衛産業の苦境があると考えられる。三菱重工など、防衛大手は防衛省からの受注が大幅に減少し、経営的に難しい状況にある。
 三菱重工の2013年3月期決算は、売上高が3兆322億円とほぼ横ばいを維持したが、防衛関係の売上げは減少する一方である。航空機部門はボーイング787の主翼製造など民間からの受注が好調だが、戦闘機の新規受注がなく、全体としてはマイナスになっている。造船部門も売上げ減だ。

 日本は武器輸出三原則があり、武器の輸出が事実上不可能となっている。政府は三原則の見直しに着手しており、次期主力戦闘機であるF-35の部品製造と輸出ができるよう調整を進めている。今回のODA活用と新造船の建造もその延長線上にある話といってよい(本誌記事「武器輸出三原則の緩和に踏み切らせた、日米防衛産業の苦しい経営事情」参照)。

 武器輸出三原則の見直しは二つの側面がある。ひとつは武器の輸出によって同盟国との軍事的関係を強化するという側面、もうひとつは輸出を増やし経常収支の改善に寄与するという側面である。今回のベトナムへの新造船の供与は、関係強化にはプラスになるかもしれないが、経済的な面ではあまりプラスにはならない。ODAはもともと日本政府の予算だからである。

 日本では憲法改正も含めて、防衛力に関する国民の考え方は着実に変化してきている。だが、武器輸出三原則の見直しが、単なる防衛産業への援助に終わるのであれば、防衛力について再評価しようという国民の期待を大きく裏切ることにもなりかねない。

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