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橋下氏が自民憲法草案に懸念表明。今こそ議論すべき「法の支配」と「法による支配」の違い

 

 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は5月12日、自民党の憲法改正草案について「公権力を前面に出しすぎており、危険だ」と述べ、民主的な内容ではないとの懸念を表明した。

 自民党は憲法改正を視野に、独自に策定した「憲法改正草案」を公表している。その内容は、国民の権利ではなく、国民の義務を強調した内容となっており、基本的な考え方をめぐって賛否両論が出ている。

 現在日本では憲法改正論議が進んでいるが、その多くが、96条を先に変更するかどうかなど、技術的な部分に集中している。そもそも憲法とはどのような存在で、どうあるべきなのかという憲法観に関わる部分はほとんど議論されていない。

 憲法をはじめとする法体系は、大きく分けて「法の支配」という価値観と「法治主義(法による支配)」という二つの価値観に分かれている。

 法の支配という概念は、米国や英国などで発達した考え方で、法は国家権力を超越した存在であり、国家権力は法に従わなければならないというものである。
 法の支配の概念のもとでは、憲法は権力からどのように国民を守るのかという視点が中心となる。また法よりも上位に位置する「法の理念」がもっとも重要な概念となるため、非民主的な法律や憲法が成立した場合には、理論的にそれは無効になる(ナチスの全権委任法は法の支配では無効となる)。

 これに対して「法治主義(法による支配)」は、国家権力が法を使って国民を支配するという概念で、戦前の明治憲法などがこれに相当する。「法による支配」の憲法では、国民の権利よりも義務の方が強調されることになる。
 また法の理念よりも制定された現行法が優先されるので、戦前の国家総動員法やナチスの全権委任法も「法による支配」の世界観では合法ということになる。

 橋下氏が強調しているのは、自民党の草案は「法の支配」ではなく「法による支配」としての色彩が濃厚であるという点だ。実は、日本維新の会内部でも同様の議論が出ており、一部の維新メンバーは「法による支配」を強調した憲法案を強く支持している。
 橋下氏がこのタイミングで自民案に懸念を示したのは、自身の憲法観に加えて、自民党に対する違いを強調すると同時に、維新内部への牽制球が目的と思われる。

 橋下氏の政治的意図はともかくとして、これまでほとんど無視されてきた、憲法観そのものに関する議論が喚起されるのであれば、それは素直に評価すべきことである。
 憲法は民主国家の基本であり、拙速な改正は禁物である。技術論ではなく、現憲法の何かどのように問題なのか、新しい憲法はどうあるべきなのか、徹底的に議論すべきである。

 ちなみに、安倍首相は以前は「法の支配」の積極的支持者であった。おそらくその理由は、現憲法が軍隊の保有を禁じていることに不満を感じ、法の理念に照らせば軍隊の所有は可能であるとの論理からと思われる。
 民主国家には武装する権利が最初から付与されており、安倍氏の主張は正しかったが、その安倍氏が「法による支配」を前面に出した憲法草案を提出しているのは皮肉なことである。

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