ニュースの教科書

ジャーナリストが記事にできないホンネやつぶやきを集めた脱力系ニュースサイト

スイスに続いてドイツでも役員報酬制限の動き。背景にある株主主権という考え方

 

 欧州で企業経営者の高額報酬を制限する動きが活発になってきている。スイスでは今年3月、企業経営者の報酬を制限する法案をめぐって国民投票が実施され、7割近い賛成多数で可決となった。ドイツではスイスの動きを受けて連立政権が報酬制限法案の検討を開始、夏までに法案を可決する予定だ。

  これらの法案は役員報酬の制限法案といわれているが、厳密には役員報酬そのものを制限する法律ではない。役員報酬の金額を取締役会ではなく、株主総会において決定するという内容である。
 スイスでの国民投票を主導した市議会議員のミンダー氏も「株式会社の原理原則に従って、報酬は株主が決めるべきである」と力説している(本誌記事「スイスで経営者の高額報酬を制限する国民投票を実施。立役者の主張とは?」参照)。
 もし役員報酬の決定権を株主総会に移せば、経営者は株主に対して自らの報酬の正当性を明確に説明する必要が出てくる。結果的に法外な金額の報酬は制限されることになるが、あくまで報酬の制限は結果であって、目的ではないということだ。

 会社の運営形態には様々な種類がある。その中で、多くの会社がわざわざ株式会社の形態を選択しているのは、株式会社であることのメリットが大きいからである。
 株式会社の最大の特徴は、株という形で会社の所有権を誰もが自由に手に入れることができるという点である。会社は資金が必要になれば、株式を発行して投資家から事業資金を調達することができる。その代わり株主には議決権が付与されるので、会社の最終的な方向性は株主にゆだねなければならない。要するに株式会社とは、会社の経営権を広く一般大衆に販売して大きな資金を調達し、皆で会社を運営しようという枠組みなのである。
 もし不特定多数の人に会社の経営権を渡したくないのであれば、合資会社や有限会社、LLCなど社内の人だけが経営権を持つ形態を選択すればよい。だが多くの会社が株式会社を選択しているということは、資金調達というメリットを最優先しているか、もしくは皆で会社を支えるという理念に共鳴しているのかのどちらかである(はずだ)。

 そうだとすれば、経営者の報酬をいくらにするべきなのかは、会社の最終的な経営権を持っている株主が決定するというのが合理的な結論ということになる。今回のスイスやドイツの試みは、株式会社の意義を社会に再認識させるという意味で、非常に画期的といえる。

 海外の企業経営者の高額報酬ばかりが話題になり、あまり目立っていないが、日本の上場企業経営者の役員報酬もこのところ急上昇している。経済的に苦しい状況にあるはずの日本で、富裕層の数が増大しているのは、億単位の役員報酬をもらう上場企業経営者が増えていることが主な要因である。報酬の絶対金額はまだ欧米よりも低い水準だが、日本企業の収益力の低さを考えると、日本の役員報酬は相対的にかなり高額といってよい。
 特に日本の場合、取締役会のメンバーはほとんどが社内の人間であり、社外役員が就任するケースは非常に少ない。社長が報酬を決めてしまえば、他の取締役は皆部下であり、その決定に反対できない構図になっている。原理的には欧米企業よりも歯止めがかからない図式だ。

 日本では株式会社の趣旨がほとんど理解されておらず、経営に対してモノを言う株主は村上ファンド事件などの影響もあって反社会的存在と見なされる傾向が強い。残念ながら日本でこうした報酬制限法案が議論される可能性は非常に低いだろう。

 - 社会, 経済 ,

  関連記事

stigurittuabe
スティグリッツ氏の主張は実はアベノミクスと正反対。それでも来日した理由とは?

 安倍首相が、世界的な経済学者を次々に官邸に呼んで会談を行っている。永田町では消 …

robotokontest
米ロボット・コンテストは日本勢振るわず。背後に垣間見えるグーグルの影

 米国防総省の国防高等研究局(DARPA)が主催するロボット・コンテストの決勝戦 …

putin02
プーチン大統領と敵対する亡命ロシア人富豪が死亡。暗殺ではなく自殺といわれているが

 ロシア人の大富豪ベレゾフスキー氏が、3月23日、亡命先である英国の自宅で死亡し …

contena
韓国大統領選はFTAをめぐって政策が真っ二つ。日本のTPP論争にも影響か?

 12月に行われる韓国大統領選挙において、2大候補者の経済政策が真っ二つに割れて …

mitsubishi20160421
三菱グループは大丈夫?自動車は3度目の不正隠し、重工では納入延期と連続火災

 三菱自動車は2016年4月20日、同社の軽自動車において燃費データを改ざんして …

seveneleven
セブンが600億円の減損。旧体制における「負の遺産」整理に着手

 セブン&アイ・ホールディングスは2016年10月6日、2016年3~8月期(半 …

hitachiturbin
三菱重工と日立が火力発電事業を統合。だが肝心の技術でトラブルが続き前途多難

 三菱重工業と日立製作所は6月11日、火力発電事業の事業統合に関する基本契約書を …

mandela
南アフリカ、反アパルトヘイト運動の英雄マンデラ元大統領の光と影

 南アフリカ政府は6月23日、入院中のネルソン・マンデラ元大統領(94)の容体が …

icij
ジャーナリスト連合による衝撃の世界脱税者リスト。最終的な爆心地はEUの盟主ドイツ?

 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は4月3日、世界中のタックスヘイブン …

kinko
金庫バカ売れ!タンス預金増加の兆候は果たして何を意味しているのか?

 マイナス金利をきっかけにタンス預金が増加する兆候が出てきている。もともと日本は …