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高市発言で浮き彫りになった原子力災害に対する根本的な誤解

 

 自民党の高市早苗政調会長が「原発事故によって死亡者が出ている状況ではない」と発言した問題で、高市氏は19日、発言を撤回し謝罪した。政府与党は高市氏の謝罪で幕引きを図りたい考えだが、民主党など野党は批判を強めており状況は流動的だ。

 高市氏の今後の進退問題はともかくとして、今回の高市氏の発言は事故に関する政府与党の基本的な価値観を図らずも浮き彫りにしたといえる。
 自民党福島県連は、過酷な非難で死亡した人や自殺した人などを含めてすべてが災害関連死であるとして、高市氏の発言を強く批判している。
 高市氏の発言そのものは論外としても、高市発言を批判している人たちでさえ、原発事故によって目に見える形で死亡した人を犠牲者として認識しているという点で考え方は共通のようである。

 だが原子力災害における犠牲者の考え方は本来そのようなスタンスに立つべきものではない。放射能の人体に対する影響はこれまで嫌というほど議論されてきたが、現在に至っても、影響がある、ないといった水掛け論のままである(高市氏の発言もその延長線上にある)。
 だが、広域にわたる低線量被曝の影響はよく分かっていないというのが、科学的に正しい答えであり、本来の事故対策は「分かっていない」ことを前提に実施されなければならない。

 人体への影響が科学的によく分かっていない災害や事故に対しては、基本的にあらゆる面で安全側に立って考え、常に潜在的な犠牲者が存在するというスタンスが必要となる。
 例えば、被害地域の放射線量が従来の基準では直接健康に影響を与える水準ではなかったとしても、リスク要因が高い人が存在していることを前提に対策を実施しなければならない。
 具体的には抗がん剤を投与され免疫機能が弱っているがん患者や、重度のアレルギー患者など、環境変化の影響を受けやすい人は大勢いる。
 こうした患者は、一般人よりも過剰に放射能の影響を受ける可能性がある。現時点では、免疫機能が弱っている人の放射能の影響を示す有意な統計データは存在していない。だが影響が分かっていない災害に対処するということは、有意な統計データがない人に対しても、最悪のシナリオを想定することを意味している。もちろん対策の範囲や予算には限度があるが、可能な限り、範囲を広げるのが原理原則である。安全側に立って考えるとはそういうことである。

 顕在化していない被害者の存在も一定の範囲で想定するという立場からすると、高市氏の発言はまさに論外ということになる。だが高市氏の発言が、単に不謹慎だというレベルで処理されてしまうと、原子力災害の本質を見失う可能性がある。過剰に放射能の危険を喧伝する必要はないが、「被爆の影響は科学的によく分かっていない」という事実が忘れ去られようとしているなら、それは大きな間違いである。

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