アベノミクスへの踏み絵?経済財政白書は竹中平蔵氏も真っ青の新自由主義的内容
甘利経済財政相が7月23日の閣議に提出した平成25年度「年次経済財政報告(経済財政白書)」の内容がちょっとした話題になっている。
基本的にはアベノミクスの効果によって、消費者や企業のマインドが改善し、景気が持ち直したと分析しており、安倍政権の経済政策を評価する論調となっている。
だが各論部分、特に企業の競争力については、日本企業の非効率性を厳しく指摘しており、構造改革派も真っ青の新自由主義的な内容のオンパレードとなっている(もっとも対策の部分では、構造改革に話が進まないよう、論旨や表現に工夫が施されている)。
白書では、日本企業のROA(総資産利益率)が諸外国と比べて低いことを強調している。
ROAが低いということは、企業が保有している資産をうまく生かせず、収益力が低い状態であることを意味している。日本企業のROAは米国の4分の1、ドイツの半分程度しかなく、しかも中小企業の収益率が極端に悪い(ドイツや米国は大企業と中小企業であまり差がない)。
白書では、その理由として、日本は資本コストが低いことや、企業活動環境が整備されていないこと、製品の差別化が進んでいないこと、さらには企業間の資源配分が非効率であることや、原価率が高くコスト体質であることなどをあげている。
このように書くとスマートだが、もう少しベタな言い方をすると、要するに日本の大企業は規制で守られ、まともな競争をしておらず、過剰な人員を抱え、下請け会社を圧迫することだけで利益を得ているということを主張しているのだ。もしこれが本当だとすれば、この状況を改善するためには、徹底的な構造改革が必要ということになる。
白書ではその対策として、なぜか海外へのアウトソーシングや海外進出という、少し方向性の違った話に論旨を展開している。構造改革という政治的にデリケートな領域に議論が進まないよう配慮したものと思われる。ただ海外進出後の国内の雇用問題や労働者の転職に関する課題に言及していることからも分かるように、雇用の流動化を強く意識していることは間違いない。
日本では構造改革路線が頓挫したことから、このテーマを掲げることは政治的にタブーとなっている。アベノミクスで提唱された各政策も、この分野にはできるだけ抵触しないよう工夫が重ねられてきた。
だが、白書で指摘されている状況はほぼ事実であり、大企業の正社員と中小企業の正社員や非正規社員との身分格差ともいえる状況は放置できない水準まで達している。景気が多少回復したからといって改善されるような問題ではなく、構造改革をその解決策としないにしても、何らかの抜本的な対策が必要な時期に来ていることだけは間違いない。
さらりとした表現だが、白書は非常に重いテーマを投げかけている。
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