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憲法解釈の見直しに、何故か内閣法制局が障壁となっていた日本の不思議

 

 安倍首相は8月2日、内閣法制局の新しい長官に、集団的自衛権の行使に前向きとされる小松一郎駐仏大使を起用する人事を固めた。内閣法制局長官は、内閣法制次長からの昇格となるのが慣例なので、今回の人事には官邸の強い意向が働いている。

 安倍氏が官邸主導で異例の人事を行ったのは、憲法解釈を見直すにあたって、内閣法制局が重要な役割を果たすからである。
 内閣法制局は政府が提出する法案の審査を行う組織である。政府が提出する法案はすべて内閣法制局の審査にかけられ、既存の法体系との矛盾がないかチェックが行われる。また歴代内閣における自衛隊に関する政府の公式見解を作成してきたのも内閣法制局である。

 自衛隊の存在やその活動に対しては、平和憲法に違反していると主張する旧社会党など革新勢力からの強い反発があり、政府はその対応に苦慮してきた。
 現在の政府の公式見解は、「憲法は個別自衛権を否定してるわけではなく、自衛のための必要最小限度の戦力を持つことは合憲だが、集団的自衛権の行使は認められていない」というものである。この政府見解は、歴代内閣の国会答弁などと大きく矛盾しないよう内閣法制局が緻密に組み立てたものである。
 だが、内閣法制局が作り上げたこの正式見解が、逆に集団的自衛権の行使に際しては足かせとなってしまっている。今回、安倍政権が集団的自衛権に関する政府見解を見直すにあたり、内閣法制局のトップを交代させるのにはこうした背景がある。

 このことは、日本の憲法解釈において、現在でも内閣法制局の存在が極めて重要であることを浮き彫りにしている。内閣法制局はあくまで行政府の組織であり、司法ではない。また内閣法制局の長官は官僚にすぎず政治家ではない。
 三権分立を基本とする民主国家では、立法権は議会にあり、違憲立法に関する審査権は裁判所にある。また行政府についてもその権限の行使は、国民から選ばれた政治家が責任を持って実施すべきものである。だが日本では官僚組織の力が強く、立法も憲法解釈も事実上、官僚組織が実権を握っている。また行政府の実質的権限の多くも官僚が掌握している。

 首相は国民から選挙で選ばれたリーダーであり、本来であれば、政府の憲法解釈について内閣法制局の意向を気にする必要はまったくないはずである。憲法解釈の見直しについて、その是非を議論する必要があるとすれば、それは国会であり、行政府内の組織ではない。
 今回、官邸主導で人事を実施できたことは大きな前進だが、内閣法制局長を交代させないと、政府見解の見直しができないということ自体が、そもそもの問題といえる。こうした官僚組織の肥大化を招いた原因は、法案作成を官僚に丸投げしてきた政治家と憲法判断を頑なに拒否してきた司法、そして最終的にはその状態を長年にわたって放置してきた国民にある。

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