天皇陛下の思いを推測する宮内庁長官発言を菅官房長官が批判。試される日本人の民度
菅官房長官は9月3日、閣議後の記者会見において、風岡典之宮内庁長官が、天皇・皇后両陛下の思いを推測する発言を行ったことについて「非常に違和感を覚える」と批判した。
問題の発言は、風岡長官が、高円宮妃の久子さまが、オリンピックの開催都市を決めるIOC総会に出席されることについて「官邸から出席の要請があった。皇室による招致活動とみられるのではとの懸念を持ったがやむを得ない苦渋の決断だった。天皇・皇后両陛下も案じられているのではないかと拝察した」と述べたもの。
菅長官は、スペインの皇太子が現地入りしていることや、英国のエリザベス女王がオリンピック招致に重要な役割を果たしていることを例にあげ、今回の久子さまのご出席は「皇室の政治利用にはあたらない」とした。その上で、陛下の意向を代弁するかのような発言を行った風岡長官を批判した。
オリンピックは現実には政治的イベントではあるのだが、建前上は文化イベントであると国際的にも認識されており、多くの国の王族が招致活動に関与している。ただ日本として皇族がこれに関わることについて、議論すること自体は大いに結構なことだろう。
だが一公務員にすぎない宮内庁長官が「陛下の思いを忖度する」という行為は、立憲君主制や民主主義の根幹に関わる重大な問題であり、管氏の批判は至極まっとうなものといえる。
明治憲法下の日本が本当に立憲君主制だったのかについてはいろいろな説があるが、少なくとも議会の存在や天皇の補弼(ほひつ)条項などから、一定の民主主義が確立した立憲君主制であったと一般には理解されている。
だが戦前の日本では官僚や軍人による「陛下の思いを代弁する」行為が横行し、民意はもちろんのこと当時の主権者である天皇陛下の意向すら無視した官僚組織の暴走が発生した。結果として大正デモクラシーで確立しつつあった英国型の議会制民主主義は完全に崩壊してしまった。
立憲君主制は、君主制と民主主義という利益が相反する制度を両立させたものであり、単純な共和制に比べて、その運用には国民の高いバランス感覚が求められる。立憲君主制は下手をすれば簡単に絶対君主制に成り下がってしまう(実際それに近い国も多い)。 どのような事情があるにせよ、公務員からこのような発言が出てくることは、大変憂慮すべき事態といえる。
日本は戦後、皇室の政治利用は一切禁止されているという杓子定規な定義に固執し、皇室の政治利用に関する不毛な論争を続けてきた。立憲君主制の本質はバランスであり、皇室が一切の政治活動に関わってはいけないということを意味しているわけではない。一方で政治家や公務員が陛下の思いを代弁することは踏み越えてはいけない一線であるともいえる。
日本は55年体制の終焉によって、ようやく皇室に関する議論にタブーがなくなった。だが逆にいえば、タブーがなくなったからこそ、本当の意味で日本人の民度が試されているといってよいだろう。
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