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規制緩和の象徴が今度は規制強化の立場に。市販薬ネット販売規制に見る栄枯盛衰

 

 市販薬の新しいネット販売ルールを議論する厚生労働省の検討会議は9月20日、市販薬のネットだけの販売を禁止する新しい制度の創設について取りまとめた。最高裁が市販薬のネット販売を一律規制した厚労省令を違法とする判決を出したことで、政府は市販薬のネット販売の解禁に踏み切っている。だが今回の議論の結果が制度化されれば、ネット販売は禁止にはならないものの、ネット専業での市販薬の販売はできないことになる。

 検討会の結論では「医薬品の販売は、薬局・薬店の許可を取得した店舗が行う」としており、形式的な店舗のみ開設し、実際にはネット専業で販売を行う事業形態を禁止した。
 また、ネット販売を行う事業者は、実店舗を深夜以外の時間帯に週15時間以上営業しなければならないという制約を設けている(ただ店舗に専門家が常駐しているのであれば、閉店時間でのネット販売は可能とした)。この内容でいくと、リアルな店舗を持たないネット販売事業者は営業できないことになる。

 厚生労働省が、最高裁判決後も、何らかの形で市販薬のネット販売に規制をかけようととしているのは、既存のドラッグ・ストアや薬剤師の団体が薬のネット販売に強く反対しているからだ。表向きは薬剤師が説明しないと薬の安全性が担保できないということなのだが、ネット事業者によって顧客を奪われることを危惧しているのは明らかだ。

 現在の薬事法では、市販薬には第1類から第3類まで3つの種類がある。第1類と第2類は副作用のリスクが高いため、薬剤師による説明が義務づけられている。第3類に説明義務はなく薬剤師以外でも販売が可能となっている。だが現実には薬剤師が常駐していなかったり、第1類の薬であっても説明をせずにそのまま薬を販売するケースが多く、制度の形骸化が指摘されていた。

 そもそもこのような薬の分類は、大手ドラッグ・ストアの急成長に対して、薬剤師の仕事がなくなってしまうことを防ぐために導入されたという側面が強い。第1類の薬を扱うためには、薬剤師を一定数雇用しなければならない。かつてあちこちに存在していた街の薬局は大手ドラッグ・ストアの進出で消滅したが、その代わり薬剤師はドラッグ・ストアの店員という形で職を維持されたわけである。
 ネット販売の割合が高くなると、仮に薬剤師の常駐が義務づけられたとしても、その絶対数は大きく減少してしまう。以前は、薬剤師にとって大手ドラッグ・ストアは歓迎すべき存在ではなかったが、ネット事業者を前にした現在では、両者の利害は一致している。

 一昔前であれば、大手ドラッグ・ストアのような大規模店舗は規制緩和の象徴であり、既得権益を壊す側の立場と見なされていた。だがネット事業者が主流になった今、大手ドラッグ・ストアは規制強化を主張する側に回っている。今回のネット販売規制をめぐる一連の動きは、時代が完全に変わったことを象徴しているといえるだろう。遠くない将来、現在のネット事業者が今度は規制強化を声高に主張するような時代がやってくるのだろうか?

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