ニュースの教科書

ジャーナリストが記事にできないホンネやつぶやきを集めた脱力系ニュースサイト

日本を米国並みのベンチャー大国にするという首相の驚愕発言がもたらすリスク

 

 訪米中の安倍首相が米国人を前に大胆な発言を連発している。9月25日、ニューヨーク証券取引所で講演した安倍氏は、日本の技術力が革新的であることや成長戦略への取り組みを説明し、「バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは買いだ!)」とかなりストレートな表現で日本への投資を促した。
 また「投資を喚起するため大胆な減税を断行する」と述べ、さらには「規制緩和がすべての突破口となる」「日本を米国のようにベンチャー精神あふれる起業大国にする」とまで明言した。米国での講演に気分が高揚したのかもしれないが、現実に提案されている経済政策との落差に、発言を不安視する声が聞こえてくる。

 安倍氏が経済政策の進め方について、本音ではどう考えているのか、市場ではその真意を測りかねている。安倍氏は外国人を前にすると、かなり高揚した口調で、規制緩和やベンチャー推進を提唱している。
 一方、国内向けの発言では、規制緩和やベンチャーといったキーワードはかなり抑制されたトーンになっているからだ(本誌記事「本心?それとも外国人向けポーズ?安倍首相がシンガポールで既得権益層との対決を宣言」参照)。

 また実際アベノミクスとして現実に打ち出されている政策は、ターゲティング・ポリシー(特定産業を国が集中的に助成する産業政策)と呼ばれる国家統制型のものが中心で、規制緩和や自由競争の促進を目指す政策は少ない。むしろ護送船団方式が復活したと捉えている市場関係者も多く、規制緩和は特区というごく一部の地域だけに限定される可能性が濃厚である。

 安倍氏のこのちぐはぐな対応にはいくつかの解釈がある。名門の生まれというある種の無邪気さから、こうした思いつきともいえる発言が出ているというものや、規制緩和に反対する抵抗勢力との政治的駆け引きから、あえて国内では競争主義を口にしていないというものなど様々だ。

 安倍氏の深層心理はともかくとして、こうした発言から懸念されるのは、日本が陥りがちな「意図せざる詐欺」になってしまうリスクである。もし現在の成長戦略がそのまま採用されることになれば、これはどう見ても護送船団方式の産業政策であり「米国のようなベンチャー精神あふれる起業大国」とはほど遠いものである。国家主義的な護送船団方式を選択するのならそれはそれでよいのだが、対外的にはそのように説明していないところに大きな問題がある。
 外国に対して要人がリップサービスをすることは多いが、それは相手を褒める場面で使われる。自らの政策を過剰にコミットするような用い方は場合によっては危険な結果を招く。

 かつて、英国の投資ファンドが、日本の国策企業である電源開発の株式を大量に買い増すという出来事があった。投資ファンドは「ハゲタカ」であるとして、国内から批判が殺到したため、政府は投資ファンドに対して買い増しをやめるよう勧告するという異例の事態となった。国策企業について、外国人の投資を制限することの是非はともかく、問題はそれまでの経緯である。
 電源開発はグローバルな企業になることを標榜し、日本政府も協力して外国人投資家に株式の売り込みを積極的に行っていたという事実である。買う側からすれば、積極的に営業されて買い物をしたら、いきなりハゲタカと呼ばれて石を投げられたという状況になる。これでは詐欺的行為と見なされても仕方ない。

 おそらく日本政府も日本人も、そのような状況は「想定外だった」と言うのだろう。日本人の対外的な行動には、このような「意図せざる詐欺」が少なくないのだ。日本を破滅寸前に追い込んだ太平洋戦争も、米英に対する、このようなコミュニケーションの齟齬が大きく影響した可能性がある。
 ポジティブシンキングに満ちあふれた安倍氏の発言が、坂道を転げ落ちる前兆でないことを祈りたいが、果たしてどうなるだろうか?

 - 政治, 社会, 経済 , , ,

  関連記事

cop21paris
COP21、途上国も参加する初の協定を採択したが、削減目標は各国まかせ

 パリで開かれていた地球温暖化対策の国連会議COP21は、2015年12月13日 …

gwcvn73
握手と蹴り合い。防空識別圏をめぐる単純ではない米中交渉の行方

 米国のバイデン副大統領は日本訪問に引き続いて、12月4日から中国を訪問する。中 …

no image
安倍晋三元首相が自民党総裁に選出。政局のカギは維新の橋下代表に

 自民党総裁選は決選投票の末、安倍晋三元首相が自民党総裁に決定した。安倍氏は10 …

obamaabepaku
安倍首相が韓国語で挨拶。日韓首脳会談はとりあえず終始友好ムードで終了

 安倍首相は2014年3月26日、オランダ・ハーグにおいて、オバマ米大統領、朴槿 …

trumpkanzei
トランプ氏が国境税に言及。米国は超大国なので意外と効果を発揮する可能性も

 トランプ次期大統領は2017年1月11日、選挙後初の記者会見を開催した。各国の …

nomura
大リストラと収益貢献の優等生。野村と三菱の外銀買収で明暗を分けたのは?

 大手金融機関の海外展開力に大きな差が付き始めている。野村ホールティングスと三菱 …

nichigin04
日銀のマイナス金利。とりあえず時間稼ぎが出来たという点で成功か

 日銀は、2016年1月28日・29日に開催した金融政策決定会合において、金融機 …

pachinko
生活保護受給者のパチンコを制限する小野市の条例から見えてくるもの

 生活保護を受ける人たちがパチンコやギャンブルに浪費しているのを見つけた市民に通 …

wsj120 02
ウォールストリート・ジャーナルが創刊125年。当時の紙面は今とあまり変わらず

 米国を代表する経済誌であるウォールストリート・ジャーナルが2014年7月8日で …

no image
日本は世界第2位の富裕層大国?そのワケは円高と高齢者優遇政策にあった

 日本の富裕層が増加しているという外資系金融機関のレポートに驚きの声が上がってい …