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トリチウム汚染をめぐる危険性の論争は、今となっては不毛な争いだ

 

 汚染水漏れが指摘されている福島第一原子力発電所のタンク付近の井戸水から、高濃度の放射性物質「トリチウム」が検出された問題で、トリチウムの危険性をめぐる不毛な論争が起きている。

 放射能汚染について厳しい立場を取る専門家などからは、トリチウムは水と性質が似ていることから除去が不可能である点などをあげ、その危険性について指摘している。
 一方、放射能汚染についてそれほど厳しい立場を取らない人からは、トリチウムが出す放射線のエネルギーが低いことなどを理由に、神経質に騒ぎ立てる必要はないとの声が上がっている。だがトリチウム単体の危険性だけを取り上げてその是非を議論することは不毛であり、あまり意味がない。

 トリチウムとは「三重水素」とも呼ばれている水素の放射性同位体である。セシウムと同様、ベータ線を放出するがそのエネルギーは低く、人体への影響は相対的に少ない。ただ半減期は約12年と長めであることや、水と化学的な振る舞いが同じであることから、その取り扱いには注意を要する物質である。つまり毒性はそれほど強くはないが、除去することが極めて難しい物質なのだ。ひとたび水と一緒に対内に取り込まれると代謝されるまで長期間対内にとどまり、微量の放射線を出し続けることになる。
 トリチウムの法定基準値は1リットルあたり6万ベクレルと、セシウム137の90ベクレルと比較すると670倍も甘い。その理由は危険性が相対的に低いこともあるが、現実に除去できないので垂れ流すほかないという現実もあるのだ。

 こうした特徴から、トリチウムは安全に運転されている原子力施設からも継続的に排出されている。すでに福島原発から漏れ出したより危険な放射性物質の総量を考えると、トリチウム単体の汚染は今となってはそれほど重要な問題ではないといえる(他があまりにひどいという意味で)。
 だがこれほど大量のトリチウムが漏れ出しているという事実は、他の危険な放射性物質も同様に漏出する危険が高いことを意味している。トリチウムの濃度が急上昇したということは、地下水の状態に何らかの変化があったということであり、トリチウムそのものの危険性が少ないからといって、楽観視してよいとはいえないだろう。

 福島原発からは、すでに想像を絶する量の放射性物質が環境に放出されており、各論を戦わせても意味がない状況となっている。放射性物質の汚染についてもマクロ的な考察や対策が必要であり、場合によっては個別元素の汚染については、ある程度無視する必要も出てくるだろう。
 つまり今回のトリチウム汚染は、事故がない状況であれば大問題だが、今となってはあまり大したことのない問題であるというのが現実の姿なのだ。その意味では、あまり過剰反応せず、冷静に対応する必要があるというのは正しい態度かもしれない。むしろ、個別元素の汚染問題に隠れて、全体論がおざなりにされるような事態だけは避けなければならないだろう。
 だが、それはあくまで比較論的、相対論的なものであり、トリチウムの絶対的な安全性を担保するものではないことを忘れてはならない。

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