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日本は立派な?年金制度があるのに高齢者貧困率が高いのはなぜか?

 

 国際連合は10月1日、高齢者の生活水準に関する国際比較調査の結果を発表した。日本は総合ランキング10位となっているのだが、調査結果は日本の社会保障政策の課題を浮き彫りにしており非常に興味深い。この手の国際比較ランキングは、指標のウェイトの置き方によって結果が大きく変わるので、総合ランキングの結果について議論することにはあまり意味がない。だが個別の指標については、各国の状況を如実に表しているものが多く参考になる。

 調査によると日本の年金のカバー率は先進諸国の中でもかなり高い。この統計では65歳を基準値にしているので、65歳以下でも年金が支給される場合にはカバー率が100%を超える。日本は127.6%となっており、先進諸国ではフランスについで高い。諸外国は支給開始年齢が65歳以上のところが多いので、少なくともこれまでは日本はかなり恵まれていたといえる(ただし、今後は支給開始年齢が上がっていく)。

 だが手厚い年金とは裏腹に、日本は高齢者の貧困率が極めて高いという特徴がある。ドイツや英国の高齢者の貧困率は10%だが日本は20%と倍以上の貧困率の高さとなっている。これは先進国ではもっとも貧富の差が激しい米国(23%)に近い水準だ。
 実は日本の貧困率の高さは高齢者に限ったことではない。OECDの調査によれば、日本全体の相対的貧困率は、欧州の約2倍で、やはり米国に近い水準だ。米国は一部を除いて公的な医療保険や年金制度がないことを考えると日本の貧困率の高さはかなり異常といってよい(米国はオバマケアによって10月1日から皆保険制度が始まったが、状況は依然不透明)。

 そうなっている理由は、日本の年金制度と労働市場にある。日本は保険料を個人負担できない場合は一切年金を受け取ることができないシステムになっている。若い時に貧困状態にあると保険料を納めることができず、結果的に年金も受け取ることができないため貧困が永久に継続する。これをカバーする制度は基本的に生活保護しかない。
 これに拍車をかけているのが日本の労働市場の硬直性だ。日本の場合、新卒時の就職環境で生涯年収がほぼ決まってしまう。途中で人材が入れ替わる可能性はほとんどなく、最初で失敗した人は、永久にチャンスがない。これは事実上の身分制度といってよい。

 日本は所得の再分配機能が充実しているといわれるが、実はそうではない。富裕層から中間層に対する所得の再分配機能は強力だが、それ以下の層にはほとんどお金が回らない仕組みになっている。年金の問題は世代間格差が議論の対象となっているが、実は世代内格差も深刻な状況にある。社会保障制度改革を実施するにあたっては、世代内格差をどう処理するのかについても議論しないと、抜本的な解決にはならない可能性が高い。

 日本には米国型の自由競争主義を否定する意見が多い。つまり日本人の多くは結果の平等を強く求めているということなのだが、現実に結果の平等は達成できていない。日本の所得分配機能はうまく機能していないのである。日本には突出した富裕層がいないことを考えると、富は中間層にのみ集中している可能性が高い。もし結果の平等を求めるのであれば、中間層に集中している富を低所得者層にもっと分配していく必要があるだろう。

 ちなみに同調査では、高齢者における人生の選択肢に関する満足度は、他の先進国に比べてかなり低い。先進諸国が軒並み90%近くの満足度になっているにも関わらず、日本は71%となっており、これは中国(79%)より低く、なんと韓国(67%)に近い水準である。両国の社会が日本よりずっと息苦しいというのはこれまでの常識だったが、状況は必ずしもそうではないらしい。

 日本の社会保障政策は、結果的に米国型市場原理主義と社会福祉型政策のいいとこ取りになってしまっている。高度成長時代にはその矛盾が露呈することはなかったが、経済力が落ちた今、これらが一気に顕在化しており、多くの人にとって不満足な状況となっている。
 日本社会が今、大きな曲がり角に来ていることは誰もが認識している。日本は、個人の自由を最優先にした自由競争社会を望むのか、結果の平等を重視した福祉型社会の望むのか、もう一度真剣に考え直すべき時が来ている。
 もし福祉型社会を望むのであれば、中間層から低所得者層への所得分配は必須となるだろう。逆に自由競争社会を望むのであれば、経済のドライバー役が期待される高所得者に対しては社会としてもっと優遇しなければならない。日本が平等な社会であったというのは幻想であり、それにしがみついている余裕はもうないのだ。

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