ニュースの教科書

ジャーナリストが記事にできないホンネやつぶやきを集めた脱力系ニュースサイト

このタイミングでアブラハム社が行政処分となった背景は何か?

 

 証券取引等監視委員会が投資助言会社アブラハム・プライベートバンクを行政処分するよう金融庁に勧告し、同社も金融庁の処分を受け入れる意向を明らかにした。
 アブラハム社は「いつかはゆかし」のキャッチフレーズで大々的に宣伝を行っていたほか、著名ブロガーが以前から問題を指摘していたこともあり、世間の認知度が高い。このため、報道のほとんどはアブラハム社に集中しているのだが、証券取引等監視委員会は、実は同じ日に別の2社の業務に対しても、ほぼ同じ内容の処分勧告を行っている。このタイミングで類似した3社に処分勧告を行った背景には、個人の海外送金に対する当局の姿勢の変化があるとの見方が出ている。

 行政処分の対象となる3社は、いずれも投資助言の登録だけで海外のファンドを販売したとして、金融商品取引法に違反した可能性が指摘されている。
 確かにファンドを販売するには、投資助言ではなく、第二種金融取引業の登録が必要であり、ファンドの運用会社から手数料を受領すれば違法となる可能性が高い。
 だが現実には、投資助言として登録した会社が実質的にファンドの販売を行うケースは多く、この状況は半ば黙認されてきた。
 その理由は、こうした投資助言会社は一部の富裕層や機関投資家を対象としたものであり、顧客も状況をほぼ理解した上で投資を行っているので、法律が想定する利益相反は起こしていないことが多いからである。

 だがアブラハム社の場合は「月5万円から投資が可能」とうたっており、不特定多数の個人を対象としているイメージが強い。実際に同社を通じて投資した顧客の平均金額は2500万円程度と見られており、それなりの富裕層といってよいかもしれないが、将来的にはより少額の投資家が増えることが予想される。これまで黙認を続けてきた当局が、このタイミングで行政処分に乗り出した理由はこのあたりにあると考えられる。

 日本の財政に対する信認が低下していることや、今後、相続税をはじめとする財産課税を強化する方向性にあることなどから、当局は資産の国外流出に神経をとがらせている。2012年からは5000万円を超える海外資産は申告が義務づけられるようになった。だがこういった措置はあくまで富裕層が対象のものであり、富裕層は基本的に合理的に行動するので、当局は容易に状況を把握することができる。

 だが大衆の少額資産となると話は別である。大衆の行動は予測がつかないため、何かをきっかけに一方向に傾くリスクがある。つまり、少額とはいえ大衆が雪崩を打って海外投資をするような事態になってしまうと、日本の金融システムに対する不安が一気に増大する可能性があるのだ。最悪のケースとしては、資金が一気に海外に流出するキャピタル・フライトも起こりかねない。
 当局としては、グレーゾーンのない完全な業者を通じてのみ海外送金や海外投資が行われる方が為替管理上都合がよい。今回の行政処分は、アブラハム社の問題というよりは、海外送金に対してナーバスになっている当局の姿勢の表れと考えた方がよいだろう。

 日本は長期の不況から十分な投資機会がない状態が続いている。海外には優良な投資対象が存在しているが、このような投資機会は、一部の富裕層や機関投資家にしか開かれていない。簡単に海外のヘッジファンド投資ができるとうたったアブラハムのサービスに3000人もの投資家が集まった理由は、こうした日本の投資環境が大きく影響していると考えられる。
 個別業者に対する処分も重要だが、より大きな視点で考えれば、日本の金融システムをより開かれたものにし、海外投資などを考えなくても、国内に豊富な投資機会が存在するという状態にすることこそが、金融システムを安定化させる最大の方策といえるだろう。

 - 経済 , , , , ,

  関連記事

bouekitoukei 201405
貿易収支は小康状態。気になるのはイラク情勢による原油価格の高騰

 財務省は2014年6月18日、5月の貿易統計を発表した。輸出額から輸入額を差し …

gpifpotoforio201506
公的年金の7~9月期の運用損失は7兆円?場合によっては政治問題化も

 公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が抱える運用損失が …

ibmapple
アップルとIBMの提携で業務用システムのスマホ対応が一気に進む?

 米アップルと米IBMは2014年7月15日、企業向けの携帯端末分野で提携すると …

gold04
スイスが中央銀行保有資産の2割を金にするという国民投票を実施。現実性は?

 中央銀行が持つ資産の少なくとも20%を金で保有することを問う、スイスの国民投票 …

abeamari02
内閣府が来年以降の経済成長試算を提出。増税、低成長、物価高のトリプルパンチ?

 内閣府は8月2日に開催された経済財政諮問会議において、2013年度の経済見通し …

kosakukiki
1月の機械受注は反動で大幅増。全体にブレが大きくなりトレンドが不明確に

 内閣府は2014年3月13日、1月の機械受注統計を発表した。主要指標である 「 …

josei
日本の労働力人口は女性フル活用でも大幅減。豊かさの維持には生産性向上が必須

 内閣府は2014年3月12日、長期の労働力人口予測をまとめた。50年後の労働力 …

bananki
FRBが量的緩和縮小を見送り。市場にとってはまったくの「想定外」

 米FRB(連邦準備制度理事会)は9月18日のFOMC(連邦公開市場委員会)にお …

ieren
バーナンキFRB議長の後任はイエレン副総裁が有力。市場関係者も歓迎か?

 2期目を迎えるオバマ政権の主要閣僚がほぼ出揃ってきたことで、来年1月に任期を迎 …

bitcoin
米英でビットコインを通貨として容認する動き。実現すれば両国に多額の資金が転がり込む

 ビットコインを通貨として容認する動きが米英で活発になってきた。日本は早々にビッ …