村上春樹氏が再びノーベル文学賞を逃す。本当に受賞することは可能なのか?
スウェーデン・アカデミーは10月10日、2013年のノーベル文学賞を発表した。受賞したのはカナダの女性作家アリス・マンロー氏で、カナダ人の受賞は初めて。有力候補の一人とみられていた日本の村上春樹氏は今年も受賞を逃した。
ここ数年、村上春樹氏の名前が有力候補としてあがっていることから、日本におけるノーベル文学賞への注目が高まっている。
ノーベル文学賞には正式な意味での候補者というものは存在していないため、本当に村上氏が有力候補なのかは分からない。だが、同氏の作品は世界各国で翻訳されグローバルに普及していることや、今回、受賞したマンロー氏も、英国のブックメーカー(賭け屋)による予想で村上氏とともに上位に入っていたことを考えると、村上氏が有力候補の一人であることは間違いないだろう。
一方、日本文学がそもそもノーベル文学賞という枠組みにそぐわないという声もある。同賞は基本的に西洋文化圏に立脚していることから、西洋近代型文学でなければ評価されにくいといわれる。ところが日本の場合には、私小説と呼ばれる独特の文学形態が発達している。国内の文学マーケットでは、どちらかという私小説の方が「芸術的」であると読者には認識され、商業的にも成功することが多い。欧州や米国ではこうした形態の小説が少なく、日本の文壇はそもそも不利な状況なのだという。
日本人でこれまでノーベル文学賞を受賞したのは、川端康成氏と大江健三郎氏の2人だが、川端氏は日本がまだ途上国であった1968年の受賞であることや、作品の内容からみて「日本文化」そのものに対して与えられた賞というニュアンスが強い。一方大江氏は西洋近代文学に分類することができるので、オーソドックスな理由で受賞した作家ということになるだろう。
村上氏はどのような位置付けになるのかが問題だが、日本での商業的な大成功とは正反対に、同氏の小説は完全な近代西洋型文学と見なされている。その意味で同氏の作品にはオーソドックスな理由で受賞できる資格が十分に備わっている。
同氏は、最初から英語に翻訳されることを前提に、構文や全体構成を練っているといわれており、同氏の作品はかなり周到に設計されたものといってよい。しかも、日本の「私小説」ファンをうまく取り込むための工夫もなされており、国内での商業的成功とノーベル賞受賞を両立できる、数少ない作家といわれている。
今回受賞したマンロー氏の年齢は82歳で、すでに引退を表明した作家である。時間という評価軸も存在する可能性があることを考えると、村上氏の受賞に関しては、気長に待った方がよさそうだ。
関連記事
-
-
若者と女性の雇用を促進するという官邸主導の会議はまさに茶番劇
政府は13日、「若者・女性活躍推進フォーラム」の初会合を首相官邸で開催した。出 …
-
-
営業マンも残業代ナシ?ホワイトカラーエグゼンプションに続いて裁量労働制の拡大へ
働く時間を社員が柔軟に決めることができる裁量労働制の対象が広がる公算が高まって …
-
-
セブン-イレブンが店内レイアウトの全面刷新に乗り出した背景
コンビニ最大手のセブン-イレブンが店舗レイアウトの全面刷新に乗り出した。背景に …
-
-
さかもと未明氏のマナー発言が炎上。「正論」だけが幅を利かすグロテスクな光景
搭乗した飛行機内での騒動を記した雑誌記事が物議を醸していたマンガ家のさかもと未 …
-
-
女性の時間あたり賃金に、生産性向上のヒントがあるかもしれない
麻生財務大臣による出産発言によって、安倍政権の女性活用政策に再び注目が集まって …
-
-
インサイダー疑惑で露呈した証券会社の下半身接待。なぜ増えているのか?
証券会社による一連のインサイダー取引疑惑によって、証券業界の下半身接待の実態が …
-
-
日本の温室効果ガス削減は家庭の省エネ頼み。断熱ゼロで寒い日本の家がさらに寒くなる
地球温暖化対策の国連会議COP21において、パリ協定が締結されたことで、温暖化 …
-
-
フェイスブック、ザッカーバーグCEOの寄付は本当に寄付なのか?
SNS最大手フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)と妻 …
-
-
三陸沖地震のニュース速報。絶叫するNHKのアナウンサーに、疑問の声が噴出
7日17時18分ごろ、東北地方でマグニチュード7.3の比較的強い地震が発生した …
-
-
米上院がNSAの情報活動を大幅に制限する米国自由法を可決
米上院は2015年6月2日、NSA(国家安全保障局)による個人情報の収集を認め …