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甘利大臣の「賃上げしない企業は恥ずかしい」という発言は、日本経済に何をもたらすか?

 

 甘利経済財政再生相は10月19日、テレビ番組に出演し「企業収益が上がっているのに賃金を上げないのは恥ずかしい企業だという環境を作りたい」と述べ、企業に対する賃上げ要請を強化する方針であることを明らかにした。安倍政権では首相自らが、財界に対して賃上げを要請するなど、企業活動に対する要求を強めている。
 一部からは経済活動への過剰介入だとして反発の声も出ているが、このまま政府が企業に対して賃上げを求め続け、企業側がこれに応じた場合、経済はどのような状況になるのだろうか?

 専門家の多くが指摘するように、賃金は企業活動の結果であって、所与の条件ではない。
 日本の企業は、株主の意向はほとんど反映されず、従業員の意向がより強く反映されている。それにも関わらず、企業が賃上げを実施しないのは、市場の先行きに対してかなり悲観的になっているからである。
 大企業は終身雇用となっているところが多いので、従業員も、生涯年収と雇用の維持の方が大事であって、賃金に対する優先順位は低いというのが現実だ。

 市場メカニズムが明確に働いてれば、政府が何を言おうが企業がそれに従うことはないだろう。だが日本の場合、企業の独立性は担保されておらず、政府が強く要求すれば賃上げは実現される可能性が高い。企業が賃上げを実施する合理的な理由がない中で、強制的に賃上げを実施した場合、経済的にはどのようなことが起こるだろうか?

 最も可能性が高いのは、インフレの加速である。賃上げを実施して企業の収益が減少すれば、市場での独占力が強い企業を中心に値上げを実施して利益を確保するところが増えてくる。また賃上げによって見かけ上の可処分所得が増えるので、値上げ分を吸収することが可能となる。この動きはやがて市場全体に広がり、商品の値上げと賃上げがスパイラルとして進んでいく可能性が高い。

 値上げと賃上げの連鎖は、経済の拡大を前提にしたものではないので、あくまで名目上の物価上昇にとどまる。これによって消費が刺激される面もあるかもしれないが、その範囲は限定的だろう。
 1970年代の米国は不況下のインフレ(スタグフレーション)が発生したが、労働組合が強かったこともあり、物価上昇に併せて賃金も上昇した。このため、インフレがさらに加速するという現象が発生したが、実質的な購買力はあまり変化しなかった。今回の賃上げ要請は、同じような結果をもたらす可能性が高い。

 もっとも年金生活者や下請企業の労働者など、物価上昇分の価格転嫁が遅れる立場の人は、実質的な購買力が低下し、生活が苦しくなるかもしれない。結局のところ、政府が賃上げを企業に要請しても、経済的にはプラスの影響はほとんどないと考えてよいだろう。
 国民が、賃上げが行われても自身の購買力に変化がないと気づくまでにはかなりのタイムラグがある。短期的には、企業に対して賃上げを要請し、国民生活を向上させたという、政治的パフォーマンスとしての効果は大きいのかもしれない。

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