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首相まで巻き込んだ自動運転技術のデモから垣間見える、日本のイノベーション事情

 

 トヨタ自動車、日産自動車、ホンダの3社は11月9日、国会周辺の公道で自動運転に関する実証実験を行い、安倍首相が試乗した。安倍氏は3社の車の助手席に乗り込んで自動運転を体験し、「さすが日本の技術は世界一だ。日本を世界で最もイノベーションが起こりやすい国にしたい」と述べた。
 だが安倍氏の発言に対しては、「世界一とは言い過ぎなのでは?」との声も聞こえてくる。国のトップまで巻き込んだ自動車メーカーによる派手なデモンストレーションと、少々上滑りした安倍氏の発言からは、日本のイノベーションに関する複雑な事情が垣間見える。

 車の自動運転技術がほぼ実用レベルに達していることは周知の事実となっている。だが日本の自動車メーカーの自動運転技術が世界一なのかについては、少々疑問の余地があるのも事実だ。自動運転技術では日本より先行している米グーグルがすでに70万キロ以上の公道テストを実施しており、着実に実績を積み上げているからだ。
 グーグルが日本メーカーよりも実績を積み上げているのは、自動運転に欠かせない人工知能の技術で先行しているからと言われているが、それだけが原因ではない。公道での実証実験がスムーズに行われていることが大きく影響していると考えられている。

 米国では、原則自由の考え方が徹底しており、新しい技術が登場したらまずやってみて、問題があれば規制をかけていくというスタンスで開発が行われていく。だが日本の場合は原則禁止であり、法制度や既存企業の存在が新しい技術の障害になることが多い。
 トヨタは公道を使ったデモンストレーションを10月に実施しているが、道交法をめぐって国土交通省や警察庁とトラブルになったといわれている。首相まで巻き込んで大々的にデモンストレーションを実施した背景にはこうした事情があると考えられている。

 だがこれもトヨタやホンダという、政府が強力に後押しする大企業であればこそである。もし自動運転技術が、IT系のベンチャー企業が開発したものであったら、首相を交えたデモンストレーションはおろか、場合によっては逮捕者すら出していたかもしれない。
 11月10日にはマツダ車の試乗会で自動ブレーキ・システムの体験中に衝突事故が発生し、乗っていた2名が重軽傷を負った。今のところ試乗会を自粛するということで騒ぎは収まっているが、これについても大手自動車メーカーではなく、ベンチャー企業によるものであった場合には、ヒステリックな騒ぎになっていただろう。

 日本は新しいものや、権威のないものに対しては常に否定的であり、イノベーションにはむしろ不向きな環境といえる。トヨタやホンダという国を代表する大企業が、政治力を駆使して首相の権威を引っ張り出すことで、ようやく新しい技術を世に問うことができるのである。

 同じレベルの潜在的技術力を持ちながら、グーグルやアップルのような外国企業が先行してしまうのはある意味で当然のことであり、 「日本を世界で最もイノベーションが起こりやすい国にしたい」という安倍氏の言葉とは正反対に、日本はイノベーションによる先行者利益の多くを放棄してしまっている。だが一方で、そのような保守的で後ろ向きな姿勢が、競争力に乏しい多くの企業とその雇用を守っているのも事実である。
 また日本の自動車メーカーも、無数の規制と明文化されていないルールによって、事実上、新規参入による競争激化から守られてきた業界であることを忘れてはならないだろう。

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