ニュースの教科書

ジャーナリストが記事にできないホンネやつぶやきを集めた脱力系ニュースサイト

ケネディ元大統領の暗殺から50年。米国は人種問題を本当に克服したか?

 

 ケネディ元大統領が暗殺されてから11月22日で50年となる。米国ではオバマ大統領がアーリントン国立墓地にあるケネディ氏の墓を訪れたほか、メディアではケネディ氏に関する特集が組まれている。
 ケネディ氏は、従来にない斬新なイメージをワシントンにもたらし、公民権運動に道筋を付けた歴史的な政治家であり、今でも米国民がもっともあこがれる人物の一人である。一方でベトナム戦争を事実上スタートさせたり、一族が常にマフィアとのトラブルを抱えるなど、多くの負の側面も持ち合わせている。ケネディ氏の暗殺をめぐる真相はいまだに謎のままだ。

 ケネディ氏のカリスマ的な人気には、人種や階級に対する米国人のアンビバレントな感情が大きく影響しており、日本人には少し理解しにくい部分がある。

 ケネディ氏は米国でも有数の資産家の生まれであり、ハーバード大卒という高い学歴や、さわやかなルックスなど、典型的なスター政治家としての素養を持っている。また従来の古くさい政権とは異なり、スター学者や若手を積極的にホワイトハウスのスタッフに登用し、斬新なイメージを演出した。だがケネディ氏に対する尋常ではない人気の背景には、やはり米国の人種問題が大きく影響しており、それは今でも続いている。

 米国では、WASP(ホワイトアングロサクソンプロテスタント)という言葉に代表されるように、プロテスタントのアングロサクソン系が圧倒的な支配力を持っていた。このためカトリック教徒であるイタリア系やアイルランド系は白人社会の中で長く差別されてきた。米国には、白人対黒人という人種問題に加えて、白人内部での差別も根強かったのである。現在でもカトリック教徒で大統領になった人物はケネディ氏しかいない。

 米国の歴史に必ず登場する犯罪集団であるマフィアはイタリア系の組織だが、イタリア系やアイルランド系に犯罪組織が多かったことは、こうした環境が大きく影響している。

 一方同じカトリックでもフランス系だけは別格で、口には出さないが多くのアメリカ人がいまだにフランスにコンプレックスを持っている。土地や株で成功した、いわゆる成金長者の夫人が急にフランス語を勉強しはじめるというのは、いまでもよく見られる光景である。ケネディ家がいかにもフランス系らしい名字であったジャクリーン夫人との結婚を強く望んだのも、政治的な思惑があってのことである。

 ケネディ氏の父親であるジョセフ・ケネディ氏は、階級や差別と戦い、密造酒や高利貸し、企業の乗っ取りといった半ばグレーなビジネスで大成功した苦労人である。こうした荒っぽいサクセス・ストーリーは多くの米国人の共感を呼び、ケネディ家をセレブとしてもてはやす一方、欧州型階級社会へのあこがれも強く、ケネディ家の前歴を嫌う人も多かった。

 ケネディ氏が大統領選で勝ち抜くための巨額の資金は、ジョセフ氏のビジネスによってもたらされた。ケネディ家の資産は莫大なものであり、ジョセフ氏の孫の一人(つまりケネディ大統領の娘)で新しく駐日大使に任命されたキャロライン氏の分だけでも273億円に達する(本誌記事「ケネディ駐日大使の資産は273億円。資産の中身を詳細に検証してみると」参照)。ほかにも遺産を引き継いだ多くの親族がいることを考えると一族の資産総額は想像を絶する規模といえるだろう。
 ジョセフ氏がこの資産を作る過程では表には出せない多くの犠牲もあったと考えられる。ケネディ家は対立するマフィアとのトラブルが絶えず、それはケネディ氏が大統領に就任してからも続いた。また白人至上主義の保守的な米国人はケネディ氏のことを生理的に嫌っており、特に南部ではその傾向が強かった。

 ケネディ氏の暗殺をめぐっては、ホワイトハウスが権力を独占したことで軍産複合体の怒りを買ったという説や、対立するマフィアとの抗争説、アイルランド系を嫌う差別主義者の報復説など、様々なものがあり、どれも一理あるが、決定的なものはない。

 現代の米国は価値観の多様化や経済のグローバル化が進み、人種問題は以前に比べれば薄れてきている。というよりも、中南米系移民やアジア系移民の急増で、人種問題はより複雑化しているといった方が正しい。今でも、米国メディアの社会面や政治面は人種の話題で溢れているし、多くの米国人にとって人種への関心はかなり高い。
 既存のあらゆる価値観とぶつかり合ったケネディ政権は、人種や階級に対する米国人のアンビバレントな感情の象徴といえる。そうであればこそ、ケネディ氏は永遠に米国人の心に絶大な影響を与え続けているのかもしれない。

 - 政治, 社会 , ,

  関連記事

futenma
沖縄への基地集中は「差別」という調査結果がもたらす地政学的インパクト

 沖縄県が2012年に実施した県民意識調査において、米軍基地の多くが沖縄に集中し …

shakaihoshokokuminkaigi03
社会保障制度改革国民会議の最終報告。年金は現状維持で、世代間不公平は解消されず

 社会保障制度のあり方に関して議論する政府の「社会保障制度改革国民会議」は8月5 …

abesaninsen
自民圧勝が逆に制約?TPPなど規制緩和を前に「族議員」の動きはどうなるか?

 参院選で自民党が圧勝したことで、規制緩和などに対する利益団体の動きに注目が集ま …

teninjikyu
カリフォルニア州の最低賃金は1700円へ。日本は人手不足なのに賃金下落の不思議

 米カリフォルニア州議会は2016年3月28日、最低賃金(時給)を15ドル(17 …

keitai
年配社員と若手社員の携帯電話論争は世代間ギャップの問題ではない

 最近、会社内における電話の使い方について、若い世代と年配世代で激しい対立がある …

no image
スパイ企業?のファーウェイが英国本格進出。そのウラには何が?

 中国の通信機器メーカー大手、華為技術(ファーウェイ)が英国に6億ポンドを投資し …

no image
無罪確定の村木氏が厚労省局長に復帰。  だが彼女は決してヒーローではない

 厚生労働省は、10日付けの幹部人事において、郵便不正事件で逮捕・起訴され無罪が …

aso03
政権幹部から景気に対する慎重な見方が相次ぐ。消費増税の影響は予想より大きい?

 安倍政権幹部から、景気の先行きに対する慎重な発言が目立っている。甘利経財相が「 …

sitsugyou02
米国の雇用は急回復。焦点は長期失業者対策にシフトしつつある

 米労働省は12月6日、11月の雇用統計を発表した。代表的な項目である非農業部門 …

takeshima
日本は竹島問題を提訴せず。安倍首相が韓国との関係改善を優先する3つの理由

 日本政府は、竹島の領有権問題をめぐって国際司法裁判所への単独提訴を当面、行わな …