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ボーイングが国内生産を維持する代わりに従業員の待遇を引き下げた背景

 

 米ボーイングは2014年1月4日、次世代の主力機である「ボーイング777X」の生産を、同社の本拠地である米シアトルで実施することを決定した。当初は海外での生産を計画していたが、労働組合との交渉の結果、組合側が企業年金の引き下げに合意したため国内生産を決断した。

boeing777

 同社は、組合に対して次世代機である777Xをシアトルの工場で生産する条件として年金の削減 を提案していた。だが、組合側がこれを拒否したため、同社は生産地の公募を行っていた。
 このままでは工場が海外に移転してしまうことを危惧したワシントン州の知事が補助金拠出を表明し、組合側も交渉に応じることになった。最終的には組合側が折れ、工場の維持と引き換えに年金削減を受け入れた。

 工場の存続と引き換えに待遇の悪化を従業員が受け入れるというケースは、欧州ではよく見られる光景である。欧州ではユーロの導入で国ごとの為替レートの影響がなくなってしまったため、最低賃金など労働法制の違いが企業の競争力に直結している。
 これまで一部の職種を除いて最低賃金がなく、競争力の高い企業が集中しているドイツと、正社員に対する保護が手厚いフランスとでは、労働者の賃金が1.5倍から場合によっては2倍近く異なっている(ドイツも昨年末の社会民主党との大連立で最低賃金の導入を決定している)。
 このためフランスからは工場の国外移転が相次いでおり、産業空洞化が深刻な状況となっている。オランド政権では企業と組合の交渉を仲介することで、工場を国内に戻す政策を進めている。

 ただ米国の場合にはこれとは状況が異なっている。米国は安価なシェールガス開発が進んだことで、世界でも最も安価にエネルギーを調達できる国になりつつあるというのがその理由である。
 90年代以降、米国からは多くの工場が海外に移転し産業の空洞化が進んだ。だが、もともと米国は世界に冠たる物作り大国であり、現在でも豊富な工業インフラが存在している。しかも米国は日本と同様、先進国ではもっとも賃金水準が低い部類に属している。
 シェールガスによって安価なエネルギー調達が可能となった今、労働コストが安く豊富な工業インフラに恵まれた米国は先進国でもっとも工場誘致に適した場所となっている。日本企業を含む多くのメーカーが米国への工場建設計画を立てているのはそのためである。

 このような状況を考えると、製造拠点を国内に維持する代わりに労働者の待遇を引き下げるというボーイング社の提案は、組合の影響力を低下させ、企業収益を拡大させるための一種の交渉戦術であったようにも見える。

 日本は円高ということもあり、これまでは世界でも屈指の高賃金であった。だがデフレが長く続いたことで相対的な日本の賃金は低下した。また円高が逆転を開始したことで、国際的に見た日本の賃金はさらに下落する方向に進みつつある。
 安倍政権は企業側に賃上げを要請しており、安くなりつつある日本の賃金を再び高い水準に戻そうとしている。一方で安倍政権は製造業の強化を打ち出し、海外への工場移転を減らそうとしているが、これらの施策は相互に矛盾する。

 内需を中心に経済を拡大させるのであれば、賃上げは重要だが、製造業の海外移転はむしろ推奨した方がよい。一方製造業の輸出による外需を期待するのであれば、実質的な賃金は低い方がよく、むやみに賃上げを推奨するのは逆効果である。
 ただ現実には安倍政権の意向とは別に、市場メカニズムによって工場の海外移転は加速している。しかも、安倍政権における経済政策のブレーンはこの動きを不可避と判断しているようで、あえてこの状態を放置している可能性が高い。
 日本経済は確実に製造業中心からサービス業中心の形態にシフトしつつあり、欧州やボーイングで見られるような待遇引き下げの代わりに工場を国内に維持するという動きにはならないだろう。

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