学会誌の女性イラスト事件から考える、オープンな現代社会を生き抜く知恵
人工知能学会は2014年1月9日、1月発行の同学会誌表紙に掲載された女性のイラストが「女性差別」である批判されたことについて、「差別する意図はなかった」との見解を発表した。
問題のイラストが本当に差別なのかどうかはともかく、今回の一連の出来事は、様々な価値観が交錯するオープン化された社会において組織がどう振る舞えばよいのか、有益な示唆を与えてくれている。
批判を受けた表紙は、雑誌のリニューアルに合わせて新しい企画として採用されたもので、いわゆる「萌え系」の少女がロボットに見立てられ、電源コードに接続されて掃除をしている。これに対して女性差別ではないかと批判が多数寄せられたという。
学会では「差別する意図はなかった」と見解を発表したわけだが、実際に雑誌の編集部では女性を差別するつもりなど毛頭なかっただろう。またこれが差別なのか?と問われれば、多くの人がそうではないと感じる可能性が高いと考えられる。
一部からは過激なフェミニズム運動家やいわゆるプロ市民と呼ばれる組織化された糾弾活動ではないかとの声も聞かれる。
だが雑誌を運営する組織の「利益」という観点で考えると、これに対して「差別ではない」と釈明したり、「プロ市民による組織的な活動である」と反論したところで、大きな損失となることに変わりはない。
今回は学会という非営利組織なのであまり問題にはならないかもしれないが、これがグローバルに展開する企業であれば、一連の事件に対応する職員の人件費や機会損失だけであっという間に数億円から数十億円の損失となってしまう。
日本人の多くが誤解しているが、オープン化された社会、あるいはグローバル化された社会というのは、外国人に対応しなければならない社会という意味ではない。国内であっても国外であっても、様々な価値観に基づく攻撃があちこちからランダムに向かってくる社会であることを意味している。
この雑誌は学会誌であり、このようなイラストを掲載しなければ販売できないというビジネスモデルではない。つまりこういったトラブルは、その主張が正しいか正しくないかに関わらず、事前に避けることができたはずのものといえる。
こういったトラブルを事前に予測し、回避することができるのかというノウハウは、オープンな現代社会において利益を最大化する大切な要素といえる。常に相対的に物事を考え、目的と手段を混同しないよう論理的に仕事を進めていかなければこうしたトラブルを防ぐことは難しい。「そのようなつもりではなかった」という釈明や「相手が非道である」という主張は、オープンな競争社会ではあまり意味をなさないのだ。
下世話な例を挙げれば、どんなに相手が非道であってもセクハラであるとして訴訟をされたら、それだけで「負け」なのである。こうした世界で戦うためには、非道な相手にも一切の隙を与えない徹底的な事前対策が必要となる。そんなガチガチなことを言っていたら日常業務が回らないなどとボヤいているようでは、本当の意味で戦争をすることはできない。日本企業の活動や日本政府の外交活動においても、思い当たるフシがあるのではないだろうか?
今回の事件は、グローバル社会あるいはオープン化された社会の特質を知るという意味で、多くの組織において参考となるはずである。
関連記事
-
-
公務員の天下りが大復活。日本経済の貧困化が進行している証拠?
一時は癒着の温床として批判されてきた公務員の天下りが復活している。背景にあるの …
-
-
「いじめ」に関して事件化するケースが増加。だが「いじめ」がなくならない本当の理由
いわゆる「いじめ」問題への対策として、加害者が何らかの罪状で逮捕されるケースが …
-
-
仏オランド政権が政策を180度転換。企業優遇と福祉削減にとうとう舵を切った!
富裕層や大企業に対する増税など、反企業的な公約を掲げて大統領に就任したフランス …
-
-
福島の除染作業で不正が発覚。だが本当の問題は別に存在している
東京電力福島第1原発事故に伴う、被災地域の除染事業において不正が行われているこ …
-
-
生活保護世帯が過去最多を更新。制度のもっとも大きな問題点は何か?
厚生労働省は2013年12月11日、9月に生活保護を受けた世帯が159万911 …
-
-
舛添知事の豪華旅行に批判殺到。だが公務員の厚遇は国民が求めてきた結果ともいえる
舛添要一東京都知事の高すぎる海外出張経費が問題視されている。ファーストクラス利 …
-
-
フランスの著名俳優が富裕層増税に反発してロシアに移住。著名人の国外脱出が相次ぐ
ロシア政府は3日、フランスの著名俳優ジェラール・ドパルデュー氏にロシア国籍を付 …
-
-
川越シェフの発言でまたまた疑問の声。高級店って本当に水代を勝手に請求するのか?
バラエティ番組などでも人気のシェフ川越達也氏が、ネット上の批判に対して「年収3 …
-
-
人工知能の本格普及が始まる兆し。これからの時代、知的職業はどう変わるのか?
米IBMは2014年10月8日、同社の人工知能「ワトソン」を本格普及させるた …
-
-
洋服の買い方が一変?アマゾンの新サービスにアパレル業界に激震
先日、高級スーパーを買収し世間を驚かせた米アマゾンが、今度はアパレルの分野で革 …