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イルカ漁への批判に対して「理解を求めたい」という日本側の姿勢は危険だ

 

 駐日米国大使のキャロライン・ケネディ氏が和歌山県太地町におけるイルカの追い込み漁について非人道的であると非難した。菅官房長官は2014年1月20日、記者会見において「イルカ漁業はわが国の伝統的な漁業の一つである」と述べ、米側に理解を求めていく考えを示した。

Kennedy

 捕鯨やイルカ(イルカもクジラの一種)漁については、かなり以前から米国など欧米各国が非人道的であるとして批判してきた。国際捕鯨委員会(IWC)において商業捕鯨は禁止されたが、日本やアイスランドは捕鯨継続を訴えており、日本は調査捕鯨という形で捕鯨を続けている。

 日本の捕鯨に対しては欧米の環境保護団体などが過激な反対運動を行っていたが、一時はその活動も下火になっていた。だが2009年に太地町の漁を批判する映画「ザ・コーヴ」が公開されたことで再び反捕鯨運動に火が付き、今回、大使が発言するに至っている。

 靖国問題において日米関係が揺らいでいる最中の出来事だけに、多くの関係者が事態を憂慮している。まさに最悪のタイミングで捕鯨問題が蒸し返されてしまったわけである。

 捕鯨の問題は、西洋の価値観に基づく一方的な批判であり、科学的合理性はない。だが「米国に対して理解を求めていく」という外交スタンスは意味をなさない可能性が高い。それどころか、こうした考え方は、結果的に相手国との関係を最悪の状態にしてしまう危険性さえある。

 日本はしばしば日本社会でのみ通じる概念で国際交渉を実施しようとする傾向がある。だが異なる宗教観や価値観が入り交じる国際交渉では「話せば分かる」可能性は極めて低い。このような場で必要なのは、交渉であって理解を求めることではないのだ。それは諸外国の国際関係を見れば一目瞭然である。イスラム教社会とキリスト教社会、そしてユダヤ教社会に相互理解など一切存在しない。あるのは交渉だけである。

 これは靖国問題にも通じるテーマといえる。政府は米国側に首相の参拝について理解を求めたいとしている。だが米国は日本の主張について理解するつもりがない可能性が高い。
 米国は、日本が無条件降伏を受け入れ、米国主導の軍事法廷で戦犯を勝手に裁くことを条件に、日本の国際社会復帰(サンフランシスコ条約)許諾したものと認識している。これがどんなに不当なことであったとしても「無条件」であることを受け入れたのは日本側である。これは韓国併合が韓国側の受け入れによって実現したという歴史的経緯について、韓国が今になって不当であると抗議したとしても、日本にとっては変えることができない事実であることと同じだ。

 靖国問題は参拝自体が問題なのではなく、こうした戦後社会の基本的な枠組みについて日本が拒絶していると米国が認識している点にある。もしそうだとすれば、米国側に理解を望むという日本側のスタンスには意味がないことになる。妥協をするのか、突っぱねるのか、あるいはパッケージ・ディールで別の条件を持ち出して交渉するのかのいずれかしかない。

 ビジネスの現場など、日常的な場面においても、相手にただ理解を求めるだけで交渉しない日本人は多い。外資系企業に勤めている人にとっては常識かもしれないが、外国企業との交渉においてこれが原因で頓挫してしまう日本企業は非常に多いのだ。相手にむやみに理解を求める人は、理解されないとなると、今度は過度の失望や反発に転じる可能性がある。日本人だけの同質社会ではそれでも通用するかもしれないが、価値観の異なる国際交渉では命取りになる危険性がある。

 靖国問題が持ち上がっている最中に捕鯨問題が再燃するのは、日米関係にとって最悪の事態である。だが、これは日本の対外的なコミュニケーションを見直すよいきっかけでもある。ただ一方的に「理解を求める」という幼い交渉から脱却しなければ、ふたたび途方もないレベルの国益を損ねてしまう可能性すらあるのだ。

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