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抵抗勢力と徹底的に戦うという安倍首相のスピーチは誰に向けられたものか?

 

 安倍首相は2014年1月22日、スイスで開かれている世界経済フォーラムの年次総会(通称ダボス会議)で講演を行い、法人税の実効税率引き下げを含む税制改革に取り組む意向であることを明らかにした。また「いかなる既得権益といえども私のドリルから無傷ではいられない」として、規制緩和に反対する勢力に対して徹底抗戦する構えを示した。

abedabos2014

 一連の発言は、既得権益に対して戦いを挑む首相というイメージ作りを狙ったものだが、これまで安倍政権が打ち出してきた政策は、規制を強化するものがほとんどであり、いわゆる構造改革的なものは皆無である。
 また現在の日本において、本当の意味で構造改革を求めているのはごく一部の層だけというのが現実である。徹底抗戦するという安倍氏の主張は誰に向けられているものなのだろうか?

 政権発足当初、安倍氏の構造改革的な主張は主に外国人投資家に対して発せられていた。日本人はごく一部の層を除いて株式投資を行わない。また株主保護が徹底していないため、本格的な投資資金は株式市場に入ってこない。
 現在日本の株式市場に投資をしているのは、ほとんどが短期的な利益のみを狙った外国人投資家であり、彼等の動向が実質的に株価を左右している。外国人投資家は構造改革の期待で株価が上がることを狙っており、安倍氏は彼等に向けて発言を行っていた。国内向けには公共事業の拡大や特定産業の保護をアピールし、海外に出るとスタンスを一転させ構造改革について強調していたわけである。

 ダボス会議は世界がもっとも注目する国際会議のひとつだが、一方、日本からの報道陣も多く、その発言はむしろ日本国内で注目される。その意味で、今回の発言は外国人に向けたものというよりも、日本国内に向けたものと解釈した方がよいだろう。

 だが、日本人の中で構造改革を本気で望んでいる人はごく少数派というのが現実である。外資系企業のビジネスマンやベンチャー起業家、一部の学者や評論家など、高所得で、かつ官庁や大企業を保護する政策から利益を得ていない一部の層に限定される可能性が高い。

 日本の有権者の大半を占める大企業とその関連会社の経営者や従業員、下請け中小企業の従業員、公務員、さらには彼等の存在によって商売が成立している飲食店などの自営業者、政府からの補助を受けている第1次産業従事者など、国民の大多数が、政府の規制によって生活が維持されており、構造改革を実施すると、一時的とはいえ大きな損失を被ってしまう。そうであればこそ、小泉内閣で提唱された構造改革は頓挫してしまったのである。

 では安倍氏は誰に向かってアピールしているのかというと、若年層の有権者である可能性が高い。若年層は中高年層と比較すると、官庁や大企業の保護政策から利益を得ていない人の割合いが高く、改革に対して前向きである。実際、新聞の世論調査では、若い世代ほど安倍政権に対して「改革」のイメージを強く持っている。

 ただこうしたイメージ戦略の使い分けは諸刃の剣でもある。若年層の期待に応えて改革を断行すれば、本丸の支持層から大きな反発を受ける。だが口先だけの状態が続けば、若年層の期待を裏切り、かえって逆効果になる可能性もある。

  ただ、既得権益層が求めているのは「お金」や「仕事」という現実的果実であり、首相がどれだけ構造改革的なことを主張したとしても、果実が得られれば支持を続ける可能性が高い。一方、既得権益と無縁の層はむしろ首相からの「言葉」を望んでいる。支持層ごとに人物像を使い分ける安倍政権の巧妙なイメージ戦略は、当分続くことになる可能性が高い。

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