ニュースの教科書

ジャーナリストが記事にできないホンネやつぶやきを集めた脱力系ニュースサイト

キヤノンの国内生産回帰は評価すべきだが、雇用の増加につながるわけではない

 

 キヤノンは2015年までに自社製品の国内生産比率を現在の42%から50%へ引き上げる方針を明らかにした。円安が長期化すると判断、海外移転を進めてきた従来の戦略を変更し、為替メリットを享受できるようにする。

canonfactory

 同社が国内生産比率を上げることを表明した1月8日以降、同社の株価は上昇基調が続いている。また多くの報道が、これから国内の雇用が増えてくるという前向きな論調となっている。
 だが同社の国内回帰は、必ずしも雇用を生み出すわけではない。また製造業の利益と為替の関係は、円安時に国内生産に戻せば利益が増加するというほど単純な仕組みではない。
 結論からいうと、国内生産比率を上げるという同社の決断には妥当性があるが、製造業がもたらす雇用や利益についての過度な期待は禁物である。

 確かに為替が円安になれば、海外で生産していたものを国内に戻すことによって、利益の拡大を実現することができる。だが生産拠点を変更してコスト的なメリットがあるのは主に人件費である。日本メーカーの多くが、材料や部品を海外から仕入れ、最終製品に組み立てて輸出しているので、製造原価の大半を占める部材費は円安になるとかえって高くなってしまう。仕入れ価格の上昇が輸出価格の上昇を上回ると、円安であるにもかかわらず利益が減少するという状況も発生する。

 工場の自動化が進んだ今、製造原価に占める人件費の割合はごくわずかであり、キヤノンの場合は3.4%に過ぎない。新興国の人件費が高騰しているとはいえ、国内に生産拠点を戻しても増加する利益はわずかである。

 同社が国内回帰を決断した理由はもっと別のところにある。生産の完全自動化である。同社は生産工程のロボット化を急ピッチで進めており、人手を介さずに製品を製造できるようになっている。こうなってくると、人件費の代わりにロボットの購入費やメンテナンス費用が必要となるが、こうした費用はどこで生産しても同じ金額になる。ロボットや制御機器のメーカーの多くは日本にあるので、むしろ日本国内に工場を設置した方が何かと効率的だ。

 要するに同社の国内生産回帰は、工程の自動化とセットになっている。つまり工場は日本に戻ってきても、雇用は戻ってこないのである。同社は余剰の人材を配置転換するとしており、同社内に限っていえば失業者が発生するわけではない。だがマクロ的に見た場合、自動化に伴う国内回帰は、雇用の増加を生み出さないどころか失業率を上げる結果にもつながる。

 メーカーの収益力を決定するのは、最終的には製品の付加価値であり、総合的なコストである。その意味でグローバルに製品を売るメーカーにとっては、為替はそれほど重要なテーマではなくなりつつあるのだ。
 生産の自動化を進める同社の戦略は正しく、これは素直にプラス評価すべきだろう。だがメードインジャパンであるというメンタルな意味での評価であったり、雇用増加という意味での評価となると、それはまた別問題である。必要に応じて国内での生産と海外での生産を切り替えることができる企業こそが優秀な企業といえる。

 - 経済 , , ,

  関連記事

mof
財務省が物価連動債の発行再開へ。いよいよインフレ時代がやってくる。

 財務省が、物価に応じて元本が増減する物価連動国債の発行を再開する。物価連動国債 …

volcker
FRBの量的緩和縮小はいつか?インフレ退治の鬼ボルカー元議長は早期縮小を主張

 FRB(連邦準備制度理事会)の出口戦略をめぐって米国市場が困惑している。遠くな …

softbankarm
ソフトバンクが英ARMを3.3兆円で買収。最終的な狙いは純粋な投資?

 ソフトバンクグループは2016年7月18日、英国の半導体設計大手アーム・ホール …

super02
5月の物価上昇は増税の影響を除くと鈍化。家計支出も大幅な落ち込み

 総務省は2014年6月27日、5月の消費者物価指数を発表した。代表的な指数であ …

toyodaakio
トヨタが個人投資家向けにわざわざ種類株を発行する理由

 トヨタ自動車は2015年4月28日、値下がりリスクを抑える代わりに、売却や配当 …

furunreport
中国版フォーブスと呼ばれる最新の長者番付。米国の資産家の水準に近づく

 中国の民間調査会社である胡潤研究院は、中国の大富豪ランキングである「胡潤百富( …

tissue
円安で値上げが続々。だが実際にはデフレ下でも値上げは進んでいた

 急激に進んだ円安を背景に、製品やサービスの値上げが相次いでいる。製紙大手各社が …

kurumakonyu
若者の7割がクルマを買いたくない。価格が上昇してしまった理由は日本経済の低迷

 日本自動車工業界は2016年4月8日、2015年度の乗用車市場動向調査の結果を …

banri
万里の長城遭難ツアー会社は死亡事故2回目。危険ツアーが組まれる背景とは?

  中国の「万里の長城」付近で起きた日本人ツアー客4人が遭難した事故で、ツアーを …

chiamujinki
日本を尻目に中国が着々と無人機を開発。ガラパゴスの影響はこんなところにも

 航空業界の国際見本市「北京国際航空展」が9月25日から中国・北京で開催されてい …