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政府がM&A活性化で会計基準変更を示唆。だがこれは問題の本質ではない

 

 政府が企業のM&A(合併・買収)を活発化させるため、日本の会計基準を改める検討に入ったという。会計基準を策定している民間団体に見直しを要請するとともに、6月に策定する成長戦略に盛り込むと報道されている。

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 日本の会計基準は独立した民間団体が決定しており、政府の意向がそのまま反映されるわけではない。また欧米流の基準に変更したからといってM&Aが活発になるという保障もない。
 今回打ち出された案は成長戦略における成果を急ぎたい経済産業省の勇み足である可能性が高く、どれだけ現実味があるのかは不透明な状況だ。

 現在の日本の会計基準では、買収した企業の資産額と実際の買収金額の差額(のれん代)を20年以内に償却すると定めている。例えばのれん代が20億円だった場合、毎年1億円を20年間利益から差し引くという処理をする。
 一方、欧米の基準ではこうした処理を行わないので、買収によって毎年の利益が減ることはない。だが毎年買収した事業の状況をチェックし、予定通りに事業が進捗していない場合には、その分価値が減少したとして、損失処理をするという仕組みになっている。
 つまり機械的に毎年利益から差し引くのか、うまくいけばそのままにしておき、うまくいかなった場合には一気に損失処理するのかという違いがあるだけである。

 経済産業省では、日本の会計処理では企業の見かけ上の利益が減少するので、M&Aが活発化しないとしている。だが経営者の立場からすれば必ずしもそうとは限らない。日本の基準であれば、とりあえず機械的に処理されるので事前の評価が甘くても許されるという面があり、逆に欧米式の基準では失敗すると一気に損失が表面化するので、M&Aの内容によほど自信がないと実行することが難しくなる。

 常に攻めの姿勢を崩さず、リスクを冒してでも成長を実現したいというアグレッシブな経営者であれば、欧米式の基準の方が望ましいだろう。だがとりえあず自分の任期をそこそこでまっとうしたという、日本のサラリーマン的な経営者の体質では、新基準はむしろM&Aを縮小させる可能性もある。

 時価評価を原則とする欧米の会計基準に合わせるという経済産業省の主張は確かに正論だが、低調な日本のM&Aを活発化させるという観点でこの制度改正を検討するのは、少々スジ違いである。こうした動きには、アベノミクスで主導権を握りたい経済産業省の省益が大きく関係している可能性が高いが、国民の側にも原因がある。

 日本では政府が音頭を取ればビジネスが活発になるという一種の「神話」が存在しているが、神話は神話でしかない。ビジネスを活発化させるためには、競争環境を整え、企業が持つ本来のアニマルスピリットの発揮を待つという地道なやり方しかないのだ。

 競争環境を整える最良の方法は、特定の業種や企業だけを優遇する措置を撤廃したり、企業活動を制限する規制を撤廃することである。だがこうした政策は優遇策の恩恵を受けている企業の経営者や従業員、関係者から大きな反対があり、なかなか実現しない。その利害を調整することこそが政府の役割であるはずだ。
 こうした本質的な部分に手を付けず、見かけ上の制度をいくら改正しても、従来と同様、企業活動の活発化には寄与しない可能性が高い。

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