ニュースの教科書

ジャーナリストが記事にできないホンネやつぶやきを集めた脱力系ニュースサイト

新型万能細胞に関する画期的研究から考える、日本の官製イノベーション思想の是非

 

 理化学研究所の研究チームが、酸性の刺激を与えるだけの簡単な方法で、あらゆる細胞に分化できる万能細胞の作成に成功した。従来の常識を覆す快挙といえるが、この事例は、画期的な研究というものは事前に予測することができないというイノベーションの本質をよくあらわしている。

rikagakuken 日本では事前に有望な分野を絞り込み、集中的に予算を投入すれば高い成果が得られるという認識が強く、特定分野を支援する政策が主流となっている(ターゲティング・ポリシー)。
 科学技術が未熟な途上国ではそれも通用するが、本当のイノベーションを必要とする先進国ではその概念は通用しなくなりつつある。今回の発見は、日本の研究開発支援体制を見直すよいきっかけになるかもしれない。

 あらゆる細胞に分化できる万能細胞は、実用化できれば再生医療や創薬分野などにおいて極めて大きな役割を果たす。
 万能細胞の分野では、2012年にノーベル賞を受賞した京都大学教授の山中伸弥氏によるiPS細胞などが有名である。だがこれまでの万能細胞は、遺伝子操作など大がかりな処理を行う必要があり、実用化に際してはこのカベをどう乗り越えるのかが大きな課題となっていた。

 今回の研究は、酸に細胞を浸すだけで万能細胞ができるかもしれないという衝撃的なものである。この研究結果に汎用性があるのかについては今後の検証を待つ必要があるが、場合によっては、今までの研究に費やされた努力や予算がすべて吹き飛んでしまう可能性すらある。

 だが往々にして革命的な研究というのはこのようにして生まれてくることが多い。ノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏の研究も、間違って素材を混ぜるという偶然から着想を得ているし、超電導技術も別な研究の最中にたまたま発見されたものである。従来の概念や知識では予測がつかないからこそイノベーションなのである。現在では、イノベーションを事前に予測・管理することは不可能であるというのがコンセンサスになりつつある。

 だが日本では、画期的な研究というのは、事前にターゲットを絞り、国家予算を重点投入することで実現できると考えている人がいまだに多い。このため官庁に対するプレゼンが上手な研究者に予算が偏って配分されるという現象が生じやすい。また既存の価値観が予算配分の基準になるので、学会などにおける地位の高い人の意向が反映されやすい。

 同じ理化学研究所の実績に、計算速度世界一を争ったスーパーコンピュータの「京」がある。ある国会議員が「2番じゃだめなんですか?」と発言して話題になったが、こうした分野はお金をかければかけただけの成果があり、トップになることは比較的容易である。それはそれで立派なことではあるが、すでに存在しているコンピュータの計算速度で一位になることは、破壊的なイノベーションにはつながらない。本当に革命的な研究というのは既存の概念をすべて覆すものであり、それを事前の予測で実現することは不可能なのである。

 米国では投入した予算とイノベーションの関係についても数多くの実証研究がなされている。日本でもこうした実証的な研究を行い、本当に予算が効率的に使われているのかチェックする必要がある。
 従来の概念に基づいて「成果が上がりそう」と皆が思う分野にだけ予算を付けている状況では、画期的なイノベーションは生まれにくいのだ。場合によってはランダムに分野を選定するぐらいの思い切りが必要なのかもしれないが、こうした措置は日本の官僚組織がもっとも不得意とするところかもしれない。

 - 政治, IT・科学 , , ,

  関連記事

hagel04
北朝鮮の強硬姿勢によって米の軍事費削減に赤信号?現状維持派の策略との声も

 敵対的な姿勢を強める北朝鮮への対抗措置から、米軍が相次いで兵力の追加配備を迫ら …

noumiso
ゲームが認知症に効果があるとの研究で、再び脳トレに注目が集まるか?

 ゲームを通じて脳を鍛えるいわゆる「脳トレ」の効果に関する議論が米国で盛んになっ …

trumpanpo
共和党トランプ候補がとうとう日米安保を糾弾。米国は変わりつつある?

 放言を繰り返し、米国の大統領選を大混乱させているドナルド・トランプ氏が、とうと …

shukinoeisai
訪中した金正恩氏の特使が帰国ギリギリで習近平主席と会談。垣間見える中国側の苛立ち

 北朝鮮の金正恩第1書記の特使として中国を訪問している朝鮮人民軍総政治局長の崔竜 …

boyscout
米国のボーイスカウトで同性愛者の入団拒否めぐる議論が紛糾

 同性愛者をめぐる扱いをめぐって、米国のボーイスカウト団体が揺れている。米国ボー …

paristero
パリの新聞社襲撃事件。実行犯はかなり訓練されたテロリストの可能性大

 パリ市内でイスラム教を風刺したイラストを掲載した新聞社をテロリストが襲撃すると …

seichousenryaku201406
新成長戦略の骨子が明らかに。従来とはうって変わって構造改革的な要素が前面に

 政府の産業競争力会議は2014年6月10日、今月下旬に閣議決定が予定されている …

houdounojiyu2014
日本において報道の自由を奪っているのは誰か?

 国際的な報道の自由度ランキングで日本の順位が急落していることが話題となっている …

no image
エアバスと防衛大手BAEの合併案に異論噴出!頓挫する可能性も

 欧州航空大手エアバスの親会社EADSと英防衛大手BAEシステムズの経営統合に、 …

no image
中国の漁船団1000隻が尖閣に集結との情報。ただし位置特定システム上では未確認

 日本の尖閣諸島国有化に対抗して、大量出航したといわれている中国の漁船1000隻 …