特定業種だけを優遇する租税特別措置は、法人税減税の効果を半減させてしまう
財務省は2014年2月、特定業種の税金を優遇する「租税特別措置」の適用件数が2012年度には132万件に達し、2011年度と比較して5%以上増えたとする調査結果をまとめた。
政府は法人税実効税率引き下げの検討を行っているが、特定業種だけを優遇する措置が存在していることについては批判の声も大きい。税率引き下げをめぐって、租税特別措置の存在があらためて議論の対象となりそうだ。
法人税の実効税率引き下げは、安倍首相がダボス会議において事実上の公約として宣言したことから、にわかに急浮上したテーマである。諸外国に比べて高いといわれる法人税の実効税率を引き下げ、国内経済を活性化するとともに、外国からの投資を増やそうという目論見である。
現在、日本の法人税における実効税率は約35.7%となっている。これに対してフランスは33.3%、ドイツは29.6%、中国は25%、イギリスは24%、シンガポールは17%となっており、日本の法人税は相対的に高いとされている。
しかし実際に日本の企業が支払っている法人税はもっと少ない。実は製造業を中心に「租税特別措置」という優遇税制があり、実質的には25%程度しか税金を支払っていない企業が多いというのが実態なのだ。
租税特別措置の適用を受けた件数は、2012年度は約132万件あり、全体の適用金額の合計は4兆4000億円にも上る。全体の4分の1が製造業と建設業で占められており、各項目においてはさらに特定企業に適用が集中するケースが多くなっている。例えば、試験研究費に関する税控除では減税額の95%を上位10社が占めていた。
優遇措置の適用を受けたい業種は積極的なロビー活動を行うことになるため、租税特別措置は、政治的利権の温床になりやすく、以前から批判されてきた。だが適用を受けた企業にとっては、この特権を当然のことながら手放したくない。経団連の次期会長に就任する東レの榊原会長は租税特別措置の撤廃に対して否定的見解を示している。
こうした優遇措置の存在は、仮に実効税率の減税が実現されたとしても、その効果を半減させてしまうといわれている。
法人税の高さが諸外国からの投資の妨げになっているといわれているが、実際はそれだけが理由ではない。世界でもっとも投資資金を集めているのは米国なのだが、米国の実効税率は40%超と突出して高い。企業や投資家は税率だけで投資先を決めている わけではなく、むしろ市場の透明性や公平性など、税率以外の要素を重視している。
現在の租税特別措置は、特定企業に集中しており、外資系企業や政治的利権とは無縁のベンチャー企業には適用されない。仮に法人税の実効税率を引き下げたとしても、特定企業を優遇する不公平な税制が残っていると、相対的にこれらの企業が不利となる点は変わらない。ベンチャー企業の活動は活発にならず、外国資本は日本への進出を躊躇することになり、経済の活性化や投資拡大の効果を半減させてしまうのだ。
このままの状態で実効税率の引き下げだけを実施すれば、経済は活性化せず、外国からの投資も増えない中、税収だけが減少するという事態にもなりかねない。
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