ニュースの教科書

ジャーナリストが記事にできないホンネやつぶやきを集めた脱力系ニュースサイト

課税対象の「個人」から「世帯」への見直しは、アベノミクスにも逆行する

 

 政府は少子化対策のひとつとして、所得税の課税対象を「個人」から「世帯」に変更することについて検討を開始した。所得税の課税対象を世帯にすれば、子供が多いほど所得税が少なくなることから少子化対策に効果があるとしている。
 だが、家族構成や働き方の多様化が進んでいる現代社会の実情を考えると、時代に逆行した政策であるともいえる。安倍政権では成長戦略のひとつとして女性の社会進出を掲げているが、このあたりとの整合性についても問題となりそうだ。

family3nin

  日本の社会保障制度や労働市場における諸問題の背景には、前近代的な家族制度と近代以後の個人自立型の制度がないまぜになっているという、日本独特の歪んだ社会構造がある。これについては、明治維新以後、急場しのぎで近代化を進めなければならなかったというやむを得ない側面があるが、これが今でも尾を引いている。

 現代の年金システムは本来、個人が保険料を納め、自身の老後に備える「保険」であるべきなのだが、日本の場合はそうなっていない。
 家族主義的な親族扶養を原則として、これを社会的に拡大したものであり、厚労省も明確にそう定義している。だが国民の意識は確実に個人完結型に変わってきており、実際、多くの国民が日本の年金制度は個人完結型の保険であると誤解している。あるいはそうあるべきと考えている。年金に対する不審感が増大しているのは実はこのあたりにも原因があるのだ。

 現在の年金制度が親族扶養をベースにしたものであるならば、若年層が高齢者を無制限に負担するのは当然であり、世代間不公平という概念は存在しないことになる。実際、厚労省もそれに近いスタンスを取っている(本誌記事「社会保障制度改革国民会議の最終報告。世代間不公平は解消されず」参照)。だが現実に世代間不公平という意識は存在していることを考えると、こうした意識と制度のミスマッチはかなり進んでいると考えるべきである。

 もっとも、こうした状況はそろそろ限界に達しつつある。日本ではすでに大家族制度は崩壊しており、核家族が中心となっている。また最近では核家族からさらに進んで事実婚の状態にある家族も増えてきた。これはいい悪いの問題ではなく、時代と経済システムの要請と考えるべきである。

 このような状況において、世帯中心の課税制度を導入してもほとんど無意味である。節税メリットが強く認識されれば、子供は多く産むかもしれないが、家庭において子供の面倒を見るのは結果的に女性なので、女性の社会進出は進まない。一方、家族の収入を最大化しようと考える人たちは、節税メリットがあっても子供を作らず夫婦共働きを選ぶことになる。両者はトレードオフの関係にあるため、両方の果実を得ることは不可能なのだ。

 自民党の憲法草案などでも議論となったが、このところ古い家族の価値観に回帰させようという動きが一部で見られるようになっている。それはそれでひとつの考え方なのだが、問題はどの時代まで戻すのかという重要な部分が非常に曖昧になっているという点である。

 保守的とされる論調の多くは、戦後昭和の核家族制度と、戦前の過渡期としての家族制度、さらには明治以前の本来の家族制度が渾然一体となっているようである。だが戦前の過渡的な家族制度も明治以前の伝統的な家族制度も、基本的には階層社会が存在してはじめて維持可能なものであり、現代の社会システム下では基本的に構築が不可能なものである。このあたりを無視した議論は机上の空論となってしまう危険性がある。

 税と社会保障は一体のものであり、個別の議論はあまり意味がない。今回、課税対象変更の議論が出てきたことはよいきっかけと考えるべきである。個人の生活は誰がどのように保障するのかという、根本的な部分の議論がより活発になってくることを期待したい。

 - 政治, 社会 , , ,

  関連記事

no image
ウォルマートが低所得者向けの新しい金融決済サービスを開始。日本も参考にすべし

 米小売り最大手ウォルマートとクレジットカード大手アメリカン・エキスプレスは、プ …

no image
エコカー補助金をもらっておきながら自動車税廃止を要求する厚顔無恥な自動車業界

 自動車業界関連団体は29日、自動車2税(自動車取得税と自動車重量税)の廃止を要 …

businessman04
駆け込み需要で絶好調な1~3月期GDP。10%増税と追加緩和への影響は?

 内閣府は2014年5月15日、2014年1~3月期の国内総生産(GDP)の速報 …

ryusigun
中国鉄道省元トップに執行猶予付きの死刑判決。事実上の減刑に国民からは批判の声

 中国最大の利権官庁であり汚職の温床ともいわれてきた鉄道省の元トップに対する汚職 …

hiranuma
維新の会と石原新党が急接近。橋下氏のたちあがれ批判は戦略?

 基本政策の違いをめぐって駆け引きが行われていた維新の会と石原新党(たちあがれ日 …

runesasu002
日本のモノ作りがダメになった本当の理由は、「新しもの好き」を止めてしまったから

 製造業は衰退したとのイメージが強い米国だが、半導体の分野ではその存在感がますま …

tennouheika
生前退位のご意向を政府関係者が否定。日本の民主主義が問われる局面に

 天皇陛下が生前退位の意向を示されたことに関して、政府関係者がこれを否定するとい …

shukinpei06
習近平氏がダメ押しで胡錦濤氏の側近を粛正。習氏への権力集中は完成に近づく

 中国の習近平国家主席が、胡錦濤前国家主席の側近である令計画氏の排除に動き始めた …

ginonujisshu
現代の奴隷制度ともいわれる外国人技能実習制度の改革は進むのか?

 新興国の外国人を期間限定で受け入れ、働きながら技能を学ぶ「技能実習制度」の改革 …

skytree00
現代版バベルの塔「スカイツリー」で電波障害が多発。東京はもはやソドムと化した?

 東京スカイツリーで大量の電波障害が発生している。毎日新聞が報じたところによると …