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東芝の半導体技術漏洩事件。罰則強化では根本的解決にならない

 

 東芝の半導体技術が韓国企業に漏洩した問題で、情報提供者に対する厳罰化を求める声が高まっている。主要メディアも「日本の法律は諸外国に比べて処分が軽すぎる」という論調だが、実際には必ずしもそうではない。また厳罰化を実施すれば、短期的には溜飲を下げられるかもしれないが、根本的な解決にはならない可能性が高い。

nandflash

 今回、韓国側に漏れたのは東芝が持つフラッシュメモリに関する技術。東芝と提携関係にある米国の半導体企業サンディスクの社員が技術情報を持ち出し、転職先の韓国企業であるSKハイニックスに提供した。警視庁はこの技術者を不正競争防止法の疑いで逮捕した。

 この事件を受けて茂木経済産業大臣は、法整備を含め政府として対策を強化する方針を明らかにした。また主要メディアでも厳罰化を求める声が大きくなっている。
 日本の情報漏洩に対する罰則は甘いというのが主なメディアの論調だが必ずしもそうではない。どちらかといえばむしろ厳しい方である。情報漏洩に対する罰則(不正競争防止法)は、懲役と罰金に分かれるが、懲役については10年以下、罰金について1000万円となっている。
 懲役については、米国のように10年以下と厳しい国もあるが、ドイツやフランスのように3年以下というところもある。日本は相対的には厳しい部類に入る。罰金ついては、ドイツ、米国のように上限を設けていない国もあることから、今後の法改正においては罰金の引き上げなどが検討される可能性が高い。

 ただ、日本は2001年から同法を立て続けに改正しており、罰則強化や適用範囲の拡大が行われている。罰則が強化され続ける中で今回の事件が発生したことを考えると、厳罰化は根本的な解決策にならない可能性が高い。仮に罰金を引き上げたとしても、支払い不能となり、結果は同じである。

 また、今回逮捕された容疑者が東芝の社員ではなく、米国企業の社員というところが、各メーカーの置かれた複雑な状況を如実に表している。
 現代は様々な国籍の企業が複合的にパートナーシップを組む時代である。技術が漏れた先のSKハイニックスも、部分的には東芝のライバルだが、部分的にはパートナーになってしまう関係にあり、情報の管理はより難しくなる。技術者の待遇向上を求める声もあるが、日本が米国企業に対して待遇向上を求めてもほとんど意味はないだろう。

 企業のセキュリティ対策強化や法整備は重要な課題だが、企業の製品戦略や技術戦略によって、漏洩の影響を最小限にするという、システム的な発想の方がむしろ重要である。

 実際、日本が技術開発の主導権を握っていた1980年代や90年代には、技術漏洩はあまり問題視されなかった。当時、日本の半導体技術者が週末に韓国に渡り、報酬をもらって技術指導(実際には技術流出)することは日常的な光景だったが、その行為は半ば黙認されていたのである。その理由は、日本企業が他国に先んじて最新技術を開発していたので、世代が古い技術の情報が多少漏洩しても、企業の付加価値に大きな影響がなかったからである。

 フラッシュメモリの技術は、以前は非常に高い付加価値を持っていたが、そろそろコモディティ化が進みつつある分野である。そのようなフェーズに入った技術はこうした問題が起こりやすく、トップ企業は意図的に技術シフトを引き起こさない限り、それに巻き込まれてしまう。
 一方、また、アップルような会社は、部品メーカーから安く部品を仕入れ、相当の利益を上乗せして販売している。本来、日本メーカーは韓国メーカーと争ってアップルに部品を提供するのではなく、アップルになるべき立場であった。

 日本企業の国際的地位が低下したという現状はどうしようもないが、このまま韓国や台湾などと、低付加価値、大量生産のモデルで競争していては、日本の製造業の利益は少なくなるばかりだ。技術漏洩の問題を根本的に解決するには、皮肉なことだが、技術力を磨き、技術シフトを常に引き起こす立場になる以外に方法はない。

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