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ベビーシッターをめぐる鈴木宗男vs乙武の論争は、日本社会の映し鏡

 

 埼玉県でベビーシッターに預けていた男児が死亡し、シッターの男が逮捕された問題で、元衆議院議員で新党大地代表の鈴木宗男氏と作家の乙武洋匡氏が衝突している。両者の議論は、社会問題に対する日本人の認識を反映していて非常に興味深い。

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 宗男氏は自身のブログで、母親がネットで知り合った面識のない相手に子供を預けたことについて「親として無責任」という趣旨の発言を行った。これに噛みついたのが、乙武氏である。
 乙武氏はツイッターで「政治家がすべきは母親叩きではなく、母親がそうせざるを得ない社会状況を改善することでは?」と反応した。宗男氏はこれにかなり怒ったようで、「評論家的な話は無責任」と猛反論している。

 宗男氏も結局は法整備が必要と主張しているので、乙武氏とそれほど意見が違っていないようにみえる。だが宗男氏が本質的に問題視しているのはそこではない。つまり母親にモラルがないことを問題視しているわけであり、法整備はおそらくその後に来るテーマである。これに対して乙武氏は、母親がどのようなモラルであったかはともかく、そのような環境に置かれているという状況を改善するよう求めている。似ているようで両者の主張は全く異なる。

 こうした意見のスレ違いは、日本の社会問題における議論では必ずといってよいほど見られる共通の構造である。
 生活保護の問題もそうだが、それが財政に与えるインパクトやその内容の是非ではなく、不正受給している人の存在や、働いている人よりも生活水準が高いケースの存在など、モラル的な部分が最大の関心事である。内容やその社会的背景について議論している人はどちらかというと少数派であり、両者の議論はまったくかみ合っていない。

 政治の世界でモラルが強調された場合には、ほとんどのケースでサービスの抑制につながってくる。生活保護は給付水準の削減が進められ、今回のケースでは、政府が認めたシッターしか利用できないという形になっていくだろう。それがいいか悪いかは別にして、結果的にサービス・コストは上がり、貧困層を中心に、そのサービスを受給出来ない人が増えてくることになる。

 これは一種の自己責任論ということになるが、いわゆる新自由主義的な自己責任論とは異なる。新自由主義的自己責任論は、すべての階層の人に徹底した自己責任を求めているが、鈴木氏的自己責任論は、社会的義務を果たさないなど、一定条件をクリアしない人のみに自己責任を求めるというスタンスである。一方、乙武氏は、いわゆるリベラル的な大きな政府の考え型ということになるだろう。

 乙武氏のような、いわゆる典型的リベラルという人は、日本ではおそらく少数派である。一方、新自由主義的な立場の人も今となっては少数派である可能性が高く、宗男氏の立場に近い人が大多数と考えられる。また現実問題として今の日本の経済力では乙武氏のいうところの大きな政府的な政策は実現不可能である。

 実際、日本の社会保障政策は宗男氏的な価値観で構成されているものがほとんどだ。政府が個人の生活を最終的に保証する形にはなっておらず、家族や親類、地域社会、会社など共同体が個人の生活を相互依存的に保障する形式となっている(日本の公的年金はいわゆる個人年金制度ではない)。共同体の枠組みからはずれてしまった人は原則として保証の対象にならない。

 このあたりが、すべて自己責任で完結する米国型とも、個人単位で政府が面倒を見る北欧型とも大きく異なっている。宗男氏的な価値観が主流なのだとすれば、日本の社会保障政策は、新自由主義にもリベラルにも振れることなく、共同体的な現状がこのまま継続する可能性が高い。財政的に苦しくなってきた場合には、サービス水準を下げ、家族への依存度をさらに高める形で解決されることになるだろう。

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