起業希望者はバブル期に比べて半減。だが高齢者起業家は急増中
起業を希望する人の数が年々減少し、2012年にはピーク時の約半分になったことが経済産業省の調査で明らかとなった。若者の起業が減少する一方、高齢者の起業が増加していることから、高齢者が起業しやすい環境が求められているという。
起業を希望する人は、1979年には169万人、バブル期には178万人に達していた。だがその後、起業希望者は年々減少し、2007年には101万人となり、2012年にはさらに減少して84万人となった。バブル崩壊以後は景気の低迷が続いてきたので、起業希望者が激減しているのはある意味で当然の結果である。
だが実際に起業した人の数を見てみると、実は以前からそれほど変動していない。1987年には29.4万人の起業家が存在したが2007年でも24.8万人ほどの起業家がいる。起業に対する雰囲気は大きく変わっているものの、起業の実態はそれほど変わっていないと解釈することもできる。
だがその内実はここ20年で大きく変質している。実際に起業した人の中で、高齢者の割合が増加し、一方で女性の起業家が減少しているのである。
1979年において60歳以上で起業した人はわずか6.6%であった。だが2007年では27%にまで増加している。1979年には39.8%であった女性の起業家は、2007年では32.3%に減少した。
この現象がなぜ生じているのかを分析するのは容易ではない。だがあえて仮説を立ててみると、相対的に高齢者に有利な社会情勢と女性の機会均等が関係している可能性が浮かび上がる。
日本の高齢者層は若年層と比較して経済的に有利な状況にある。年金は今のところ十分な額が支給されているし、世帯が保有する貯蓄の6割以上が60代以上の高齢者に偏っているというデータもある。基本的な生活は保障されているので、気軽に起業することが可能である。定年後、そば打ちを勉強し、自宅を改装してそば屋を開いたというのも起業なので、これはうなずける結果である。
一方、かつて女性の起業率が高かったのは、女性の社会進出に大きなカベがあり、自己実現をするには起業しか選択肢がなかったことが影響しているかもしれない。女性の就労機会が増えるにつれて、起業する割合が低下した可能性がある。
同じ起業といっても、革新的な技術をベースにしたベンチャービジネス的なものと、付加価値がそれほど高くない零細事業とでは質的に異なる存在である。革新的な技術やサービスの登場による経済の活性化を期待するのか、雇用増を期待するのかによって、起業促進策のあり方も変わってくる。
以前は、革新的な技術やサービスの登場が求められていたが、最近では雇用対策という側面がより強くなってきている。資金的に余裕のある高齢者に対して起業を促すという政策は、それなりに意味のあることなのかもしれない。
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