米国がフィリピンと新軍事協定。本格的な米軍駐留が再開されるが・・・
米国政府とフィリピン政府は2014年4月28日、米軍のフィリピン展開を強化するための軍事協定に署名したと発表した。オバマ大統領のフィリピン訪問に合わせたもので、南シナ海での行動を活発化させる中国を牽制する狙いがある。
ただ、フィリピンにおける米軍の位置付けについては、恒久的なものではない可能性が高い。この協定によって、中国包囲網が形成されたと解釈するのは早計である。
新しい軍事協定の有効期限は10年間。この間、米軍はフィリピン軍の基地を使用することが可能となる。特に米国が着目しているのは、ルソン島のスービック地区やクラーク地区。実は両地区には、以前巨大な米軍基地が存在しており、米軍のアジア展開の拠点だったからである。
両基地は、ベトナム戦争時代には米軍の出撃拠点だったが、冷戦終結を経て役割が低下。さらにフィリピン国内で反米思想が高まってきたことから、1992年までに米国は両基地から撤退している。
一方で、経済的にはアジアの重要性が高まっていたこともあり、両基地は、米国の運輸会社であるフェデックスやUPSがアジアのハブとして利用してきた。だが米国と中国の経済的な結び付きが強まるにつれ、両社はハブを中国に次々とシフト。このため空きができた両基地の施設を今度は米軍が再び利用する可能性が出てきた。
だが米国がどこまで本気なのかは定かではない。オバマ大統領はかつての米軍基地を再建したり、新しい基地を建設する計画はないと述べており、あくまでフィリピン軍の既存施設を米軍が使用するにとどまる可能性が高い。
また、正式に協定を結んだのは今だが、米国とフィリピンが、軍事施設の利用について大筋合意したのは2年前であり、最近の中国軍の動きを直接的に反映したものではない。
オバマ政権はアジア重視の外交を標榜しているが、これは中東に偏り過ぎた外交姿勢のバランスを整えるという意味であり、アジアの安全保障問題に積極的にコミットするという意味には解釈されていない。今の米国は、以前とは異なり、世界の諸問題についてリーダーシップを発揮するという意向はまったく持ち合わせていないのだ。
中東問題やウクライナ問題などでも同様だが、オバマ政権は地域問題に対して非常にドライで冷淡である。フィリピンへの米軍駐留再開も、以前のような恒久的軍事力の展開ではなく、中国との経済交渉を有利に進めるための手段とみるべきだろう。
反米意識の高まりから、以前は米軍を追い出したフィリピンだが、現在は中国の直接的な脅威にさらされており、米軍復帰についてはとりあえず歓迎ムードだ。日本にとっても、中国への牽制という意味ではプラスと考えてよいだろう。
だが米国のホンネは、中国と敵対することではなく、交渉を有利に進めることにある。米軍の活動に対する過度な期待はやはり禁物である。
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