ニュースの教科書

ジャーナリストが記事にできないホンネやつぶやきを集めた脱力系ニュースサイト

注目を浴びるトリウム原子炉。だが足元では関連プロジェクトが後退している

 

 現在の主流となっているウランを使った軽水炉に代わって、トリウムを使った原子炉を活用するというプランが話題となっている。

 トリウムは、ウランと性質が似ており、核分裂反応を起こすので原子炉の燃料として使うことができる。トリウムを燃料とする「トリウム溶融塩炉」は、ウランを使った現在の原子炉より経済的で、かつ安全性が高いといわれており、新しい世代の原子炉として一部で大きな注目を集めているのだ。

 トリウム溶融塩炉自体はかなり昔から研究されてきたものだが、ここにきて大きな注目を集めているのには二つの理由がある。
 ひとつは福島原発の事故である。ウラン燃料を使った軽水炉の危険性があらためて露呈した事故であり、世界中で原発の安全性に対する認識が大きく変化した。

 もうひとつは米国の核戦略の行き詰まりである。戦後は米国を中心とした大国のみが核兵器を保有でき、それ以外の国は事実上保有が禁止されてきた。だが最近では、北朝鮮やイランなどが独自に核開発を行い、核不拡散が有名無実となっている。この状態を放置すると核戦争が勃発しかねない。

 トリウムを使った原子炉は安全性が高いだけでなく、核兵器への転用が極めて困難という特徴を持つ。原子力利用のシステムをトリウム系に変更し、ウランの使用を禁止すれば、全世界的に核兵器を無くせるというわけである。

 いいことずくめのトリウム原子炉だが、核兵器への転用ができない点が、逆に普及の妨げになっている。もともと今の原子力利用は、核兵器の製造と表裏一体となっている。核兵器への転用ができるからこそ、ウランが使われてきたという経緯があるため、これをトリウムに変えてしまうと、そのメリットが生かせなくなってしまう。既存の核保有国のプレゼンスが大きく後退するリスクをはらむ。

 もちろん米国内にも推進派は存在する。米国は圧倒的な通常兵力を持っており、この状態で核兵器を完全に禁止してしまえば、米国の軍事的優位は維持できるという考え方だ。だが一方で、ウランを軸にした核兵器と原子炉には軍産複合体や原子力産業の莫大な利権が存在し、彼らの抵抗が極めて大きいのも事実だ。

 米国ではライトブリッジ社(旧トリウムパワー社)という軍と極めて関係の深いベンチャー企業がトリウム燃料の開発を続けていた。だが、最近ではトリウム関連のプロジェクトは後退し、現行のウラン軽水炉の運転寿命を延ばす燃料の開発に事業の主軸を移している。

 中国では昨年から、中国科学院が中心となって、トリウム溶融塩原子炉の開発プログラムをスタートさせている(リーダーは江沢民元総書記の息子)が、研究はスタートしたばかりで成果が出てくるのはかなり先となるだろう。

 トリウム炉が持つポテンシャルが極めて高いことは事実だが、米国の核戦略や軍産複合体の意向など、技術以外の要素に大きな影響を受ける。単なる技術論だけで過大な期待はしない方が賢明だろう。

 - 政治, 社会

  関連記事

kokkaigijido02
格付け会社の体質が変わっていないのだとすると、日本国債はそろそろ危ないかもしれない

 安倍首相が消費増税の再延期を表明したことについて、格付け会社は引き下げを実施し …

saitamaken
埼玉県がいじめ情報収集サイトを開設。完全に問題をすり替えた愚策。

 埼玉県教育局は、学校でのいじめを見聞きした児童生徒がその情報を提供するための携 …

borubo
仏マクロン政権がガソリン車の販売禁止を提言。ボルボなど欧州メーカーもEVシフトへ

 フランスのマクロン政権が、2040年までにガソリン車の販売を禁止するという野心 …

hoikuen
保育園の騒音を巡る裁判。試される価値観多様化の社会

 神戸市で保育園の「騒音」をめぐって裁判となっている。保育園の近くに住む70代の …

masuzoe
舛添知事の豪華旅行に批判殺到。だが公務員の厚遇は国民が求めてきた結果ともいえる

 舛添要一東京都知事の高すぎる海外出張経費が問題視されている。ファーストクラス利 …

fcatokai
日本がとうとう核物質の米国返還を決定。日米関係は根本的に変わった

 日米両政府は2014年3月24日、核物質の最小化に関する日米の共同声明を発表し …

kokusaishushi201402
経常赤字体質への転換を受け、政府は海外資本の誘致に舵を切り始めた

 財務省は2014年4月8日、2014年2月の国際収支を発表した。最終的な国の収 …

gpif201306
年金運用改革の最終報告書まとまる。国内の景気対策に年金が利用される危険性も

 公的年金の運用改革を議論する政府の有識者会議は11月20日、国債を中心とした従 …

mosado02
オーストラリア人工作員の不審死で明るみに出たモサド対外工作活動の実態

 イスラエルの諜報機関モサドの工作員だったオーストラリア人男性が、イスラエルの刑 …

herikomoney
ヘリコプターマネーを巡る首相官邸の危険な火遊び

 首相官邸周辺でヘリコプターマネー政策をめぐる危険な火遊びが進行している。今のと …