貿易赤字は引き続き小康状態。この間に次のフェーズへの対策が必要
財務省は2014年7月24日、6月の貿易収支を発表した。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は8222億円の赤字となった。赤字は24カ月連続で、前年同月比では赤字が4.5倍に拡大した。
6月単月では、赤字が大きく増大しているように見えるが、昨年6月はむしろ例外的に赤字が小さかった。季節調整済みの数字では3月は約1兆6000億円の赤字、4月は約8800億円の赤字、5月は8600億円の赤字、6月は約1兆800億円の赤字となっている。
3月の数字が大きいのは、消費税の駆け込み需要による輸入増大が原因である。4月以降については、同じ水準の赤字が続いていると解釈した方がよいだろう。
日本の貿易赤字は2012年頃から急増している。主な原因は産業構造の転換に伴う工場の海外進出と原油価格の高騰によるエネルギー輸入金額の増大である。
このところ原油価格は、ウクライナ情勢やパレスチナ情勢の緊迫化から短期的に高騰しやすい環境にある。また中長期的にも新興国における需要拡大などから、引き続き高い水準で推移するとの見方が大半である。また産業構造の転換は不可逆的なものであり、今後、日本の製造業の輸出が急回復する可能性も低い。貿易赤字は慢性的なものであると考えるべきだろう。
ただ、これまでのようなペースで赤字が拡大するのかどうかはまた別問題である。日本の製造業の海外移転はほぼ一段落したといわれている。工場移転に伴う輸入増大の影響は今後は少なくなってくるだろう。また為替も今のところ安定的に推移しており、輸入価格の上昇も一段落している。
しばらくは小康状態のような形で、慢性的な貿易赤字が継続しつつ、海外投資による収益(所得収支)によって、経常収支は大幅な赤字にならない状態が続くだろう。
ただ中長期的には日本国内の脱工業化はさらに進み、輸入が増大してくることになる。いずれ慢性的な経常赤字となり、債券を取り崩しながら経済を維持する時代がやってくる。
経常赤字国は、資本の一定割合を外国人投資家に依存することになる。小康状態が続いているうちに、良質な海外資本の参入を促すための施策を準備していくことが重要だろう。
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