貿易赤字は一定水準でほぼ安定。やはり円安は輸出増加に寄与せず
財務省は2014年10月22日、9月の貿易統計を発表した。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は9583億円の赤字だった。赤字は27カ月連続となっており、最長記録をさらに更新している。また、4月から9月までの上半期の貿易収支も5兆4271億円の赤字となり、過去最高水準となった。
貿易赤字は過去最長記録を更新しているものの、その水準は1兆円程度で安定してきている。日本は慢性的な貿易赤字体質が定着しているが、これは経済の成熟化にともなうものであり、逆行するのは難しいのが現実である。
一方、日本は過去の貿易黒字の蓄積を原資とする運用収益(所得収支)があり、これは毎月1兆円から1兆5000億円程度になる。最終的な国の収支である経常収支は、おおまかにいえば貿易収支と所得収支を合わせたものなので、今の水準で貿易赤字が安定的に推移すれば、経常収支は黒字を維持することになる。
経常収支の赤字化は、必ずしも経済成長にマイナスではないが、日本は成熟社会を前提にした産業構造の転換が遅れている。このため、国際収支の急激な変化は混乱をもたらす可能性があり、経常収支が当面黒字を維持するのは、望ましいといえる。
円安の進行で輸出が増えないことは、ようやく社会的なコンセンサスを得られつつあるが、今月の貿易統計はそれをさらに後押しするだろう。輸出金額は円安の進行で増加したが、やはり輸出数量は金額ほどの伸びを示していない。
日本企業は海外での生産を増やしており、円安は輸出数量の増加に寄与しない。付加価値の低い製品はコストの安い海外で生産し、輸入という形で国内需要を満たすのは自然なことである。重要なのは、内需においてより付加価値の高い産業を育成することであり、それができなければ、成熟国家として、成長を維持することは難しい。
円安によって海外からの投資収益は増加するので、十分に原資はある。経常収支が安定しているうちに、国内産業の体質転換を進めていく必要があるだろう。
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