インフレ目標を頑なに拒否する日銀。その主張に説得力がない本当のワケとは?
日銀の白川総裁は12日都内で会見し、インフレターゲットの導入について「物価も賃金も上がらない状況が長く続いた日本経済では現実的でない」と述べ否定的な見解を示した。日銀は以前からインフレターゲットの導入には頑なに反対しており、今回の会見でもそれをあらためて印象付けた。
日本の物価が上がらないのは構造的な要因が大きく、貨幣的要因ではない。インフレ目標を設定しても「いきなり市場のインフレ予想が高まることは起こり得ない」という白川総裁の見解は正しいといってよい。
制度疲労を起こし時代に合わなくなっている日本の経済システムや企業体質を抜本的に改革しなければ、お金が回って物価が上昇することはない。つまり構造改革である。
白川総裁はじめ日銀職員の多くは構造改革派であり、競争環境が整備され、弱い企業が淘汰されないとホンモノの経済成長は起こらないと考えている。会見でも白川総裁は「思い切った規制緩和など政府の役割も大きい」と自説を重ねて主張している。
まったくその通りなのだが、日銀のこうした主張にはなぜ説得力がないのだろうか?ひとつには構造改革路線は小泉政権後に日本国民から否定されており、日銀も大きな声では主張できないという事情がある(白川総裁は会見のたびに構造改革の必要性に言及しているが、目立たないように発言している)。
だが説得力がない最大の理由は日銀自身にある。市場には徹底的な弱肉強食を強要しておきながら、自分自身の安定的な身分と利権は決して手放さないからである。
公務員の天下りは以前からかなり批判され、財務省ですら露骨な天下りはできなくなっている時代だ。だが日銀はいまだに所管する民間企業に正々堂々と天下りを行っている数少ない組織だ(日銀は官庁ではないが、政府当局の組織であることに変わりはない)。
しかも職員の年収も破格だ。財務省よりはるかに高く、課長級ですら1400万円ももらっている。ちなみに米FRBのバーナンキ議長の年収は1600万円だ。日銀の課長とバーナンキ議長は同じレベルと考えているらしい。白川総裁にいたってはバーナンキ議長の2倍以上だ。
日銀の高給に嫉妬した財務省が年収引き下げを勧告し、日銀は7.5%の給与引き下げを渋々受け入れたが、それでもまだまだ高い。
これではどんなに正論を吐いたところで誰も耳を貸さないであろう。市場原理主義は大変結構なことだが、市場原理主義においてもっとも重要なことは、決して「例外」を設けないことである。
日銀がデフレを引き起こす最大の戦犯である理由は、主張する政策の内容ではなく、自己中心的な身の振り方にある。
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