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ワイツゼッカー元大統領の死去から考える、国益と愛国心

 

 戦後の国際社会に極めて大きな影響を与えたドイツのワイツゼッカー元大統領の国葬が2015年2月11日、ベルリンで行われた。メルケル首相やヨーロッパ各国の首脳ら、およそ1400人が参列した。

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 ワイツゼッカー氏は、1984年から10年にわたってドイツ大統領の座にあった。ワイツゼッカー氏最大の功績は、何といっても、ドイツの国際的な信頼を高め、東西ドイツの統一を成し遂げたことである。ドイツは今や、欧州のみならず、世界のリーダーともいえる立場になっているが、同氏の存在がなければ、現在のドイツは存在しなかったはずだ。

 同氏が大統領に就任した当時、すでにドイツは世界最強の経済大国のひとつとなっていた。だが、ナチス・ドイツの呪縛から完全には脱却できておらず、今ほどの政治的リーダーシップは発揮できない状態にあった。

 ワイツゼッカー氏は、ドイツ敗戦40周年にあたる1985年5月、連邦議会において「過去に目を閉ざす者は、現在にも盲目となる」という有名な演説を行い、ナチス・ドイツによる犯罪はドイツ人全員が負う罪であることを強調した。この演説をきっかけに、ドイツの歴史認識問題は解決に向かい、1989年の東西ドイツ統一につながっていった。

 当時、ドイツ国内には連合国側にも戦争責任があるとする考え方が台頭し、国論が二分されつつあった。ワイツゼッカー氏は、基本的に戦争責任はすべてナチスにあるとし、そのナチスを生み出したという点でドイツ国民全員が責任を負う必要があるとの姿勢を明確にした。

 ワイツゼッカー氏の歴史観については賛否両論があったが、ドイツの責任を内外に示し、ナチスによる犯罪は自国の手で徹底的に裁くという姿勢を明確にしたことによって、ドイツが永久に戦争責任を負い続ける状況から脱却させた。

 ワイツゼッカー氏は頑固な理想主義者であり、リアリストが多いドイツの政界ではたびたび孤立した。こうした同氏の性格を考えれば、この演説は彼の純粋な信念から発せされたものである可能性が高い。だが結果として同氏の演説は、他国がドイツに対して、これ以上の戦争責任を追及する口実を排除したという点で、極めて現実的に作用した。結果として、ドイツは東西統一を成し遂げ、文字通り欧州のリーダーとしての地位を確立したのである。

 国際政治というものは、現実的なパワーバランスのみで成立する極めて冷酷な世界であり、交渉は相手があって初めて成立する。一方的に自分の思いだけを抱いても、国益を確保することはできない。国家間の激しい覇権争いの中で現実的に勝利しなければ何の意味もないことをドイツの歴史は教えてくれている。
 ワイツゼッカー氏の真意がどこにあったのかはもはや知るすべもないが、戦後問題を終結させ、ドイツが欧州のリーダーとなるきっかけを作ったという意味で、同氏はまさに愛国者だったといってよいだろう。

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