4月の実質賃金は24カ月ぶりに上昇。だが中身は物価上昇率の鈍化
賃金の伸びから物価の上昇分を差し引いた4月の実質賃金が24カ月ぶりに増加となった。ただ内実は、物価上昇率の下落によるもので、本当の意味で賃金が増えるという状況には至っていない。
厚生労働省は2015年6月2日、4月の毎月勤労統計の速報値を発表した。基本給や残業代などを合わせた給与総額は27万4577円となり、前年同月比で0.9%増加した。物価の上昇分を差し引いた実質賃金でも前年を0.1%上回った。
このところ賃金は毎月わずかに上昇する傾向が続いていたが、それ以上に物価の上昇率が大きく、実質賃金は毎月2%から3%のペースで減少していた。安倍政権は財界に対して異例の賃上げ要請を行っているが、労働者の生活水準はまだ向上していない。
今回の実質賃金の上昇は24カ月ぶりのことだが、名目賃金の上昇ペースは変わっておらず、物価の上昇率が低下したことが主な要因である。
労働者にしてみれば、原因が何であれ、賃金が上がることのメリットは大きい。だが、インフレを経済成長のエンジンにしようというアベノミクスにとっては、物価上昇の鈍化は悩ましい問題ということになる。
さらにいえば、4月は消費増税から1年が経過しているので、見かけ上の物価上昇率が低下している。消費税の影響を差し引くと状況は大きく変わっていないと考えるべきだろう。
このところもう一段の円安が加速しており、輸入物価が引き上げられる可能性が高くなってきた。もし円安傾向が定着するようであれば、実質賃金はさらに低下してしまう。
円安の恩恵を受ける企業は主に製造業だが、海外での現地生産が進んでおり、企業の儲けが国内経済に波及しにくい。企業本体の従業員は賃上げが進んでいるものの、下請け会社などの状況が大きく改善する状況にはなっていないのが現実だ。
関連記事
-
-
アリバイ作り?増税論への牽制?消費増税に関する有識者ヒアリングを8月に集中開催
内閣府は8月20日、消費税引き上げの影響について有識者からヒアリングする会合を …
-
-
ロボットが普及すると仕事が減るはずでは?経産省の試算がイメージと逆な理由
ロボットや人工知能(AI)が普及すると仕事がなくなってしまうというのが一般的な …
-
-
三菱重工に異変?大型客船の巨額損失に続いて、今度は国産ジェットで4度目の納入延期
日本のもの作りを象徴する企業の一つである三菱重工で、相次いで異変が起こっている …
-
-
バーナンキ議長の議会証言。量的緩和縮小は既定路線になったと解釈すべき
FRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長は7月17日、米議会で証言を行った …
-
-
中国で中央政府直系の国有企業初が初の上場廃止
中国の上海証券取引所に上場していた中国の国有企業「中国長江航運集団南京油運」が …
-
-
文科省の有識者委員会で飛び出したG大学とL大学って何だ?
L大学とG大学というキーワードが教育関係者の間でちょっとした話題になっている。 …
-
-
ミシェル・オバマ大統領婦人が、わざわざ単独で中国を訪問した理由
米中の外交が活発化してきている。2014年2月にはケリー国務長官が中国を訪問、 …
-
-
都が子どもの声を騒音条例から除外との報道。正論だが手続きに問題はないのか?
このところ保育園などにおける子供の声をめぐる議論が活発になっているが、東京都は …
-
-
四半期決算好調も株価が冴えないソフトバンク。重しはやはり米国事業
ソフトバンクの米国事業が同社の株価の重しとなっている。足元の業績は好調だが、本 …
-
-
トヨタの好決算は円安の影響ではない。海外生産、海外販売へのシフトが利益の源泉
トヨタ自動車は5月8日、2013年3月期決算を発表した。売上高は前年比18.7 …