ギリシャが一転、EUが提示した緊縮策を丸飲み。ドイツがそれでも支援に否定的な理由
債務危機となっているギリシャ支援を話し合うユーロ圏財務相会合が2015年7月12日、ブリュッセルで開催された。ギリシャに対する金融支援交渉を再開するのかについて協議したが、結論は出なかった。場所を首脳会議に移して協議を続けており、最終的には首脳らにおける政治決断に委ねらる。
ギリシャは5日、国民投票を行い、EU側が求める緊縮策について反対の意思を示した。ところがチプラス首相は一転、EU側が求める内容を盛り込んだ緊縮策を提示し、3年間で総額535億ユーロの金融支援をEUに求めた。
ギリシャが提示した緊縮策には、飲食店など付加価値税における軽減税率を撤廃し23%の標準税率に合わせること、離島に対する軽減税率を撤廃すること、法人税を現行の26%から28%に引き上げること、標準退職年齢を67歳とし、年金の支給開始年齢を引き上げること、防衛費を2億ユーロ削減すること、などが盛り込まれた。
定性的な内容としては、これまでEU側が求めてきた内容と一致しており、ギリシャ側は2年間で130億ユーロの削減効果があるとしている。
この緊縮策についてフランスのオランド大統領は、高く評価するコメントを出したが、ドイツやオランダなどは否定的。首脳会談では、ギリシャに緊縮策の実行を担保する法制化を求めるという意見も出ているといわれる。
ドイツのショイブレ財務相は、数字が信用できないという主旨の発言を行っており、ギリシャが提示している数字そのものに疑念を持っている可能性もある。
当初EUが求めていた緊縮策は90億ユーロ程度になるといわれていたが、ギリシャから提示された数字はそれをはるかに上回る130億ユーロであった。
付加価値税の改革や年金改革では、GDPの2%程度の効果があるといわれており、ギリシャのGDPにこれをあてはめると約36億ユーロになる。その他の施策と組み合わせても年間40億ユーロがいいところであり、改革案がEU側が求めていた内容に沿っているのだとすると、2年で130億ユーロという金額は過大である可能性もある。
これまでの交渉でも、ギリシャ側が提出した内容と数字が食い違うケースが散見されている。メルケル首相は「もっとも重要な信頼が損なわれている」と発言しているが、この発言がこれまでの経緯のことを指しているのか、ギリシャが提示した緊縮策のことを指しているのは定かではない。
今回の交渉でも前回と同じような問題が起こっているのだとすると、ギリシャが提示した緊縮策の実現性は低いということになる。ドイツがギリシャに対して法制化を強く求めているのは、こうした背景があるのかもしれない。
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