マイクロソフトが40年続いたビジネス・モデルを大転換。ソフトは完全に利用するモノへ
米マイクロソフトは2015年7月29日、基本ソフト(OS)の新製品である「ウィンドウズ10」の提供を開始した。今回の新OSの投入は、創業以来続いてきた従来型ソフトウェア・ビジネスを根本的に変革するものとなる。
同社は、開発したソフトウェアをパッケージ化して売り切るという従来型のソフトウェア・ビジネスで頂点に立った企業である。だがネット環境の普及で、クラウド化が進行、パッケージの売り切りから定額利用というサービスへの切り換えが求められるようになってきた。
ウィンドウズ10は、これまで何回も行われてきたOSの新製品投入だが、従来とは根本的に状況が異なっている。
大きな変更点は、1年間という期間限定だが、ウィンドウズ7やウィンドウズ8といった既存製品からのアップデートが無料となった点だ。同社は、これに合わせてクラウド上でデータを蓄積したり、業務用ソフトを月額固定料金で利用できるサービスを強化している。ウィンドウズ10は、その土台となるソフトであることから、収益より普及を最優先させたものと考えられる。
また同社は、数年に一度、機能を大幅に刷新した新OSを次々に投入しており、これが同社の大きな収益源となってきた。しかし、今後は、小規模なアップデートをネット経由で随時実施するのみで、機能の大幅刷新は実施しない。つまりウィンドウズ10は、最後のウィンドウズ製品ということになる。
このことは、ソフトウェアのパッケージを売り切るビジネス・モデルは完全に終了したことを意味している。今後はクラウドを通じてサービスを提供する一種のアウトソーシング会社に変貌することになる。
同社の2015年6月期の通期決算は、売上高が935億8000万ドル(約11兆5000億円)、純利益は121億9300万ドル(約1兆5000億円)だった。昨年度は純利益が2倍以上あったので、同社の収益力は低下している。ビジネスモデルの転換は待ったなしの状況といえる。
ちなみに、同社の業務用ソフト「オフィス」をクラウド経由で利用できる「オフィス365」はすでに利用者が1500万人を突破しており、倍々ゲームで増えている。すでにこの事業だけで年間2000億円の収益を上げている計算になる。
同社では、世界にあるパソコンのうち10億台を3年以内にウィドウズ10に置き換えるとしている。これらの利用者が皆、クラウドでサービスを利用すれば、現在の同社の売上げをはるかに上回る業績を上げることも可能だ。
ウィンドウズ10の発売開始は、これまで数十年に続いてきたソフトウェア産業の一大転換点といえる。今後の同社の決算に市場関係者は注目している。
関連記事
-
-
10~12月期GDPはマイナス成長。打つ手がなく、日本経済はいよいよ袋小路に
内閣府は2016年2月15日、2015年10~12月期のGDP(国内総生産)速 …
-
-
米議会が華為技術(Huawei)に対する正式な調査報告書を公表。ソフトバンクはどうする?
中国の通信機器大手、華為技術(Huawei-ファーウェイ)と中興通訊(ZTE) …
-
-
5月の機械受注は大幅減。民間は資金を遊ばせており、官需依存がさらに高まる
内閣府は2014年7月10日、5月の機械受注統計を発表した。主要指標である 「 …
-
-
フェイスブックはスマホ広告が堅調で過去最高益。ただし北米依存の状況はあまり変わらず
SNS最大手の米フェイスブックは2014年7月23日、2014年4~6月期の決 …
-
-
米国で雇用の質が徐々に改善。NYではウォール街に頼らない雇用増を実現
景気拡大が続く米国で雇用の質が改善している。ニューヨークでは、かつてはウォール …
-
-
URの杜撰な事業が浮き彫りにする、官に依存した日本経済の麻薬中毒的体質
「日本経済の復活」「大胆な規制緩和」といった安倍政権の輝かしいキャッチフレーズ …
-
-
トランプ氏が国境税に言及。米国は超大国なので意外と効果を発揮する可能性も
トランプ次期大統領は2017年1月11日、選挙後初の記者会見を開催した。各国の …
-
-
手詰まり感が出てきた新しい成長戦略。素案には抽象的なキーワードが並ぶ
政府は2015年6月22日、産業競争力会議を開催し、今月末にまとめる成長戦略の …
-
-
政府が石炭火力の増設に政策転換。今まで日本が世界からダマされていことが明らかに
政府はこれまでの方針を見直し、石炭火力発電の新増設の推進にかじを切る。日本経済 …
-
-
シャープがまさの赤字転落。だがこの事態は昨年からすでに予想されていた
業績回復のメドが立ったと思われていたシャープに再び暗雲が漂っている。2015年 …