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70年談話のための有識者懇報告書は、バランスの取れた妥当な内容

 

 安倍首相が戦後70年談話のために設置した私的諮問機関「21世紀構想懇談会」は2015年8月6日、議論を取りまとめた報告書を首相に提出した。当初は、歴史認識をめぐって相当な紆余曲折が予想されたが、フタを開けてみると、報告書はバランスの取れた常識的な内容に落ち着いた。
 国内では、当時の大陸政策をめぐって感情的な議論ばかりが目立つ。だが、報告書を読めば、日本がなぜ国際社会で孤立することになったのか、歴史認識問題でなぜ日本だけが批判されるのか、よりはっきりしてくるはずである。

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 報告書は「満州事変以後、大陸への侵略を拡大し、第一次大戦後の民族自決、戦争違法化、民主化、経済的発展主義という流れから逸脱して、世界の大勢を見失い、無謀な戦争でアジアを中心とする諸国に多くの被害を与えた」と明記しており、日本の大陸政策に問題があったとの認識を示した。

 特に重要なのは、日本が日露戦争でロシアに勝利したこと、台頭する米国が、欧州列強への対抗策として「民族自決」を標榜したことが、列強による植民地化の流れをストップさせる原動力になったと位置付けている点である。

 欧州に遅れて大国化した米国は、アジアにほとんど植民地を持っておらず、冷酷な国際政治のツールとして反植民地主義を採用した。米国の支援で日露戦争に勝利した日本は、本来、こうした半植民地主義の流れを作る側にいたことになる。
 だが日本は、自らが作り出した時代の流れに逆行し、やがて覇権国家となることが確実であった米国と対立し、無謀な戦争に突入することになった。

 報告書では「1930年代以後の日本の政府、軍の指導者の責任は誠に重いと言わざるを得ない」とも指摘している。
 日本の植民地政策については、国内では感情的な議論ばかりが目立つ。「欧米も同じように侵略行為を行っていた」「日本だけが悪いわけではない」といった論調はその典型的なものである。

 だが報告書を見れば、その論点はポイントがズレていることが分かる。米国という新しい超大国の台頭によって、仮に建前であったとしても、これ以上の植民地拡大は認められないという国際的なコンセンサスが出来上がりつつあった。
 道徳の問題ではなく、国際的なパワーバランスの問題として、日本だけが中国大陸に直接進出し、植民地を拡大することは、もはや不可能な状態になっていたのである。だが、当時の日本の指導者はこうした国際情勢を認識することができず、大陸進出を強行した。これは超大国である米国に挑戦状をたたきつけたも同然の行為であり、これは相手国からみればまさに「侵略」ということになる。

 国策を完全に誤ったという意味で、当時の指導者の責任に言及した今回の報告書の内容は妥当なものといってよいだろう。座長の西室泰三日本郵政社長は「若い世代にも広く読んでもらい、歴史への理解を深める一助としてほしい」と語っているが、この報告書は非常に良質な近代史の参考書となるだろう。

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