まるでヤクザ映画?政府が財界に「決意を示せ」と設備投資増強を要請
経団連の榊原定征会長は2015年11月26日、政府が開催した官民対話で、設備投資を今後3年間で10兆円増やすことが可能であると発言した。
政府からの強い要請を受けて、具体的な金額に言及した形だが、本来、個別企業の経営環境に基づいて決定されるべき設備投資の額が、政府からの要請で決定されるという異様な状況となっている。
安倍政権は、政府と財界が賃上げなどについて議論する官民対話と呼ばれる会議を開催している。7~9月期のGDP(国内総生産)が設備投資の低迷で2四半期連続のマイナスとなったことから、安倍政権は企業の設備投資に対する消極姿勢を問題視している。26日の会議では何らかの回答をするよう財界に強く要請していた。
甘利経財相は25日の記者会見において、翌日の官民対話に関して「財界からの決意を聞きたい」という発言まで行っている。
慌てた経団連側が会議の場で提示したのが、設備投資10兆円増という数字である。だがこの数字は2014年度のGDP(国内総生産)における設備投資額69.4兆円をベースに、安倍政権が掲げる名目GDP600兆円の達成に必要な成長率を単純に掛け合わせたものに過ぎず、企業の経営状況を考慮したものではない。
さらに榊原氏は、来年の春闘について「今年を上回る実績を期待する」と述べ、事実上、今年以上の賃上げを行う事についても明言した。
経団連側の提案を受けて安倍首相は、法人実効税率を現在の32.11%から2016年度に20%台に引き下げることを関係各省に指示している。法人税減税を前倒しする代わりに、賃上げと設備投資強化を受け入れさせた格好だ。
日本企業が機能不全に陥っているのは事実だが、政府が設備投資の増額や賃上げを企業に強要しても根本的な解決にはならない。政府が行うべきなのは、企業活動を活発にするための環境作りであり、それ以上でもそれ以下でもないはずだ。ましてや、設備投資について「決意」を迫るようなものではないだろう。
政府が具体的な数字に関与し、財界側がこれを受け入れるというのは、かなり異様な光景だが、問題なのは当事者にその意識が希薄なことである。政権幹部は「決意」というような情緒的な言葉で財界に圧力をかけ、財界はどこまでコミットできるのか分からない数字であっても、いとも簡単に口にする。
経団連が数字に言及したからといって各企業が一律に設備投資額を上乗せするとは限らない。仮に賃上げと設備投資増強に踏み切った場合でも、企業は利益を確保するため、下請けへの値引き圧力を強めたり、非正規社員の待遇を悪化させるといった措置を行う可能性が高いだろう。結局、来年の官民対話でも、同じような議論が繰り返され、空虚で情緒的な言葉だけが飛び交うことになるのかもしれない。
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