ニュースの教科書

ジャーナリストが記事にできないホンネやつぶやきを集めた脱力系ニュースサイト

産経ソウル前支局長無罪判決が、極めて妥当かつ民主的である理由

 

 韓国のソウル中央地方裁判所は2015年12月17日、朴槿恵大統領の名誉を傷つけたとして起訴された産経新聞前ソウル支局長に対し、無罪とする判決を言い渡した。今回の起訴は、言論の自由が保障されていない韓国の後進性を示す結果となったが、裁判所が示した判断は、極めて先進的な内容だった。

pakucongress
 産経新聞の加藤達也前ソウル支局長は、執筆したコラムが朴槿恵大統領の名誉を毀損しているとして在宅起訴された。コラムでは、2014年4月に起きた旅客船沈没事故当日、朴槿恵大統領の所在が一時分からなくなっていたという朝鮮日報の記事を引用し、大統領が元秘書の男性と一緒にいた可能性を示唆した。これが大統領の名誉毀損にあたると判断された。

 判決では、「言論の自由は韓国の憲法で保障されている」「公職者に対する批判は可能なかぎり許容されるべきであり、公職者の権限が高ければ高いほど許容される範囲はより広くあるべきだ」との判断を示し、無罪を言い渡した。

 韓国政府は、加藤氏を起訴する一方、今度は、日本との外交関係悪化を危惧する韓国外務省が、裁判所に善処を要請するなど、基本的人権や三権分立の原則が無視される異様な状況が続いていた。だがこれに対して裁判所が下した判決は極めて先進的なものだった。一連の経緯は韓国の後進性を示しているが、司法判断はむしろ日本よりも民主的といってよいかもしれない。

 ポイントとなるのは、「現実的悪意」と呼ばれる、民主主義の根源に関わる法理の考え方が、判決に生かされている点である。
 現実的悪意とは、政治家や公務員など、公人に対する批判記事を名誉毀損で損害賠償請求する場合、嘘の情報と知っていながらあえて報道した、もしくは、嘘かどうかも検証せず無謀に報道した、といういずれかの条件が成立している必要があるいう米国の法理。しかも、この2つを立証する責任があるのは、原告、つまり政治家や公務員側となっている。要するに、よほどのことがない限り、政治家や公務員にはプライバシーは存在しないという考え方である。

 これはあくまで民事に関する法理だが、今回の判決は、基本的に類似の考え方が適用されているといってよい。

 このような法理が存在するのは、政権側が批判を封じ込めるために高額訴訟を乱発し、民主主義を機能不全に陥れる危険性があるからだ。日本や韓国では、政治家にもプライバシーがあるので一般国民と同じように保護すべきだという意見が一定数存在しているが、それは民主国家の論理としては正しくない。

 政治家は、夫婦同姓や同性愛など、価値観の根幹に関わる法律を作成する権限が与えられている。また安全保障に関する重要な情報も取り扱う立場にある。
 たとえ私生活とはいえ、どういった信条を持ち、どのように生活しているのかについて、可能な限り公表されなければ、国民は正しい選択を行うことができない。公人にもプライバシーは存在するが、民主国家である以上、それは大幅に制限されなければならない。実際、公人のプライバシーが過剰に保護されているのは、中国や北朝鮮など、非民主国家ばかりである。

 韓国は、他国のジャーナリストを、報道が気に入らないという理由だけで起訴するという、中国や北朝鮮並みの対応だったが、今回の判決で、韓国は民主国家としての立場を何とか保持したかもしれない。

 - マスコミ, 政治, 社会 , ,

  関連記事

no image
日本の富裕層は124万世帯。格差拡大はこれからが本番?

 コンサルティング会社であるボストン・コンサルティング・グループは2014年6月 …

saka
日本郵政の斉藤社長が退任。後任は竹中氏の天敵。郵政民営化見直しはこれで完成形?

 日本郵政は19日午前、臨時取締役会を開き、斎藤次郎社長の退任を決定した。後任に …

uiguru
新疆ウイグル自治区でまた衝突が発生。取材制限で実態は闇に包まれたまま

 中国国営の新華社通信は6月26日、中国北西部の新疆ウイグル自治区で「ナイフで武 …

furunreport
中国版フォーブスと呼ばれる最新の長者番付。米国の資産家の水準に近づく

 中国の民間調査会社である胡潤研究院は、中国の大富豪ランキングである「胡潤百富( …

tenanmon
中国のPMIが低下するも、当局はハードランディング覚悟で対策は取らず

 中国国家統計局は7月1日、6月の製造業購買担当者景気指数(PMI)を発表した。 …

doitsushoibure
ドイツがとうとう国債の新規発行がゼロに。日本は何を学ぶべきか

 ドイツのショイブレ財務相は2014年9月9日、ドイツ連邦政府の2015年度予算 …

isejingu
式年遷宮に現職首相が84年ぶりに参列。「私人」として参列しなければならない理由とは?

 20年に1度、伊勢神宮の社殿を造り替える式年遷宮のクライマックスとなる「遷御の …

kouroushou
お役所がなぜ「英断」できたのか?厚労省が厚生年金基金廃止に舵を切った本当の理由

 ファンド(投資信託)購入の見返りに現金100万円を受 け取ったとして、警視庁と …

kurumakonyu
若者の7割がクルマを買いたくない。価格が上昇してしまった理由は日本経済の低迷

 日本自動車工業界は2016年4月8日、2015年度の乗用車市場動向調査の結果を …

no image
個人情報の取り扱いを緩和。一定ルール下で売買も可能に

 政府は30日の閣議において、企業や病院などが保有する個人の取り扱いを緩和するこ …