ニュースの教科書

ジャーナリストが記事にできないホンネやつぶやきを集めた脱力系ニュースサイト

衛星ひとみの墜落事故。リスク過小評価で、設計そのものに不備との報告書

 

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2016年5月24日、機体が破壊され、地上に墜落したとみられるX線天文衛星「ひとみ」について、バランスを欠く設計でリスクを過小評価していたとする報告書をまとめた。
 個別の技能がいくら優れていても、全体をバランス良く取りまとめる技術がなければ、その本領を発揮することはできない。ひとみの事故は、日本のもの作りが突き当たっている壁を象徴した出来事かもしれない。

hitomi201605

 ひとみは、310億円の費用をかけて開発され、X線観測を通じて、ブラックホールなど宇宙の構造解明に関する研究の進展が期待されていた。
 2月17日の打ち上げ後、機能確認や試験観測を行っていたが、3月26日に機体が予期しない回転を始め、衛星から電波が途絶えてしまったことで、状況を把握できなくなった。回転を止めることはできず、機体に大きな力がかかり、最終的には脆弱な部分を中心にバラバラに破壊されてしまったと考えられる。破壊後の機体は、地上に落下した可能性が高い。

 報告書によると、今回の事故は、いくつもの要因が重なって発生している。最初に発生したのは、姿勢制御系のデータ検出異常である。機体の姿勢制御系は、実際には衛星が回転していないにもかかわらず、回転していると誤検知。回転を防ぐための措置を行ったが、これによって現実に衛星が回転してしまった。

 想定外の状態にシステムが状況を正確に判定できず、これを抑制する機能も働かなかった。最終的にシステムは衛星が危険な状態にあると判断し、回転を止めるためスラスタ(超小型の推進装置)を動作させた。
 ところが、システムにあからじめ入力されていたデータに誤りがあり、本来噴射すべき方向とは逆方向にスラスタを噴射してしまい、衛星はさらに高速で回転する結果となった。

 ひとみは理論上、もっとも弱い部分では、4秒に1回の速さで回転すると破壊される可能性がある。NASA(米航空宇宙局)などの分析によると、ひとみはバラバラになっている可能性高いという。JAXAも同様の見解を持っており、機体の一部は地上に落下したとみている。

 もっとも大きな要因は、入力データのミスということになる。これは衛星の製造を請け負ったメーカーの担当者がプラスとマイナスを打ち間違った結果とされているが、問題はミスそのものではない。
 本来、こうしたシステムは人間のミスが一定確率で発生することを前提にする必要がある。だが、ひとみのプロジェクトでは、こうした人為ミスをチェックする仕組みになっておらず、問題が発生するまで、その事実に気が付かなかった。

 報告書では、設計段階において、観測性能を上げることばかりが優先され、安全性や信頼性に関する要求項目が少なかったことを認めている。その結果、全体としてバランスを欠く設計となり、そこに機器の異常や人為ミスが重なり、衛星が破壊されるという事態にまで進展した。

 個別の技能は優れているのに、システム全体としてよい物を作れないというのは、最近の日本の物作りに共通した現象である。今回の事故も、背景にはITを駆使したシステムの存在がある。時代の要請として、IT化は避けて通れないものであり、ITを使って全体をうまくコントロールする技術がないと、品質のよいものは作れない。
 職人芸的な技で、個々の部品レベルで質の高いものを作っていればよかった時代はすでに過去の話である。今回の事故は、日本のものづくりを再考するきっかけとすべきだろう。

 - 社会, IT・科学 ,

  関連記事

iphone6s
グーグルに対する挑戦状?新型iPhone広告ブロック機能の影響度

 米アップルは2015年9月9日、iPhoneの新製品を発表する。詳細は明らかに …

monka
大学の研究支援政策に変化の兆し。旧帝大中心は変わらずも、配分は実績重視へ

 大学など研究機関に対する国の支援方法に変化の兆しが出てきている。文部科学省は8 …

restaurant
米国の一部で広がるチップ廃止の動き。その背景にあるのはグローバル化?

 レストランにおけるチップの習慣を廃止する動きが米国の一部で広がっているとニュー …

kokuritsukyogijo
創造か破壊か?新国立競技場のあまりの奇抜さと巨大さに各方面から異論噴出

 2020年の東京オリンピック開催が正式決定したことで、メイン会場となる新国立競 …

monju
政府が「もんじゅ」見直し検討。核燃料サイクルに関する国民的議論が必要な時期

 日本の核燃料サイクルの中核となる高速増殖炉「もんじゅ」について、政府が計画の見 …

huawei
米議会が華為技術(Huawei)に対する正式な調査報告書を公表。ソフトバンクはどうする?

 中国の通信機器大手、華為技術(Huawei-ファーウェイ)と中興通訊(ZTE) …

tusuruga
敦賀原発が廃炉に?重大な結論を「空気」で決めるのは誰も責任を取りたくないから

 原発停止をめぐってまた茶番劇が繰り返されている。原子力規制委員会の調査団は10 …

jobuzu
ジョブズ氏に関する新しい伝記が話題に。どっちのジョブズ氏がホンモノか?

 米国で発売されたアップル創業者スティーブ・ジョブズ氏の伝記が話題となっている。 …

bunkaku
中国で腐敗撲滅隊なる政治ショーが流行。だが「文革」を連想させる光景に不安の声も

 権力者の腐敗が社会問題化している中国で、腐敗撲滅隊と呼ばれる政治ショーがインタ …

inseki
ロシアの隕石落下地点は、かつて大事故を起こした核施設のすぐ近くだった

 ロシアのウラル地方に落下した隕石は、広範囲にわたって被害をもたらし、負傷者は1 …