希望の党のトンデモ公約で、再び企業の内部留保が注目の的に
企業の内部留保の問題に再び焦点が当たっている。日本企業が多くの現預金を活用できていないことは以前から問題視されてきたが、希望の党が総選挙において内部留保課税を持ち出したことで、再び注目を集める結果となった。
2017年3月末時点における日本企業(金融・保険業を除く)の内部留保は約406兆円となっている。内部留保はあくまで会計上の概念であり、同じ金額の現金が余っているわけではない。一般的に内部留保とは貸借対照表の利益剰余金のことを指すことが多い。
実際に日本企業が現金(預金)という形で保有しているのは約211兆円と内部留保の約半分である。残りは各種資産に入れ替わっているので、税金をかけてすぐに徴収できるものではない。したがって希望の党の公約は現実的なものとはいえなかった。
しかしながら、日本企業が多額の現金を余らせているのはまぎれもない事実である。
日本企業が内部留保を設備投資などに振り向けない理由は主に二つある。ひとつは景気の先行きに対して悲観的であること、もう一つは、コーポレートガバナンスの不在である。
日本企業の多くは、今後、日本経済が持続的に拡大するとは考えておらず、積極的な設備投資には慎重な姿勢を崩していない。このため設備投資を拡大するところは少なく、結果的に大量の現金を余らせることになる。
もし投資する先がないのであれば、本来であれば新規事業を開拓したり、海外のM&Aを模索するということになるが、日本企業の場合にはこうしたインセンティブは働かない。諸外国あれば、現預金を余らせている企業には株主から猛烈なプレッシャーがかかるが、日本ではコーポレート・ガバナンスが確立しておらず、株主からの圧力は小さい。
下手に動いて失敗するよりも、何もせず役員の就任期間をやり過ごした方が経営者にとってはメリットが大きいというのが現実だ。
こうした姿勢が設備投資の増大を妨げてきたが、今後は別の形で内部留保が消化される可能性が高まっている。それは人手不足を背景とした人件費の高騰である。
アルバイトやパートなど非正規労働者のコストがこのところ急上昇しており、企業はこのところ対応に苦慮している。今後、人手不足はさらに深刻化することは確実であり、企業は人件費を上乗せせざるを得なくなるだろう。
結果的に内部留保の取り崩しが進む可能性が高まっているわけだが、多くの企業は利益を確保するため、価格への転嫁を進めることになる。場合によってはこれがインフレの引き金となるかもしれない。
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