日本メーカーが相次いで米国に製造拠点を設置。米国はものづくり大国として復活か?
米国において安価な新型天然ガスであるシェール・ガスの生産が急拡大していることから、米国内に生産拠点を移す動きが加速している。
米化学大手ダウ・ケミカルや英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどが大規模なエチレン工場の建設を計画しているほか、三菱ケミカル、旭化成、クラレなど、日本の化学メーカー各社が米国での工場建設を検討している。
シェールガスは岩盤層に含まれる天然ガス。米国を中心に開発が進んでおり、近年採掘コストが劇的に下落し価格競争力が出てきている。国際エネルギー機関(IEA)によると、シェールガスの開発によって米国は近い将来、世界最大のエネルギー産出国になるとともに、すべてのエネルギーを自給自足できることになる見通しだという。
世界最大の石油消費国が、自給自足可能になり、かつ最大の生産国になるというのは、エネルギーをめぐる世界情勢が180度ひっくり返るようなインパクトをもたらす(本誌記事「米国がエネルギーの完全自給が可能に。世界的な安全保障の枠組み変化の可能性」参照)。
米国は80年代以降、製造業の空洞化に直面し、サービス業と知識産業しか国内に残らない状況となっていた。現在の米国はGoogleやAppleといった知識産業型の会社が経済をリードしている。だが安価なエネルギーをすべて自給できるとなると話は変わってくる。高度な知識産業に加えて、製造業も一気に米国回帰する可能性が出てきたのである。
日本はこれまでアジアに工場が出て行ってしまう事態ばかりを心配していた。だが日本の化学メーカーの動きを見れば分かるように、今度は米国に対して工場が出て行くという、新しい空洞化の局面に遭遇する可能性が出てきているのだ。
米国は今でこそ、サービス産業や知識産業の国となっているが、もともとは日本など比較にならないレベルのものづくり大国であった。自動車も家電もコンピュータも飛行機も、すべてアメリカ企業が作ったものである。アジア諸国や中国が日本のものづくりを完全にキャッチアップすることはまだ難しいが、日本にできて米国にできないものなど何ひとつない。
シェールガス、シェールオイルという10年前までは想像もできなかったイノベーションによって、日本のものづくりには、米国という途方もなく強大な競争相手が出現しつつあるのだ。
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