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TPPの影響試算を政府が公表。だが一般均衡モデルを使った試算にはほとんど意味がない

 

 政府は3月15日、安倍首相によるTPP参加表明を受けて、その経済効果に関する影響試算を発表した。輸出と消費の増加で6兆1000億円のプラス効果が得られるのに対して、輸入拡大などで2兆9000億円のマイナス効果になるという。差し引きは3兆2000億円のプラスとなり、TPPに参加するメリットがあるとしている。

 マイナスの影響は農林水産分野でもっとも大きく、コメは3割が輸入 に置き換わり、豚肉も4600億円、牛肉も3600億円減少するという。
 豚肉の国内生産高は約6000億円、牛肉の生産高は5000億円程度なので、額面通りに受け取ればまさに壊滅的状況だ。
 国内生産額が1500億円しかない砂糖は何と100%輸入に置き換わるという。

 マスメディアはネットでは、この試算をめぐって、TPPに関する賛否両論が渦巻いている。だが注意しなければならないのは、試算はあくまで試算という事実である。

 内閣府が用いているモデルは、関税交渉の場などにおいて国際的なスタンダードとなっている一般均衡モデル(GTAP)である。これはTPPの影響について個別要素の積み上げで推定するものではなく、マクロ経済モデルを使って包括的に算出する手法である。
 具体的にいうと、ある物品の関税が撤廃されると、その国の生産性や消費などにどの程度の影響があるのかというパラメータを事前に設定し、生産と消費の変化が相互にどのような影響を与えるのかについて方程式を解くというものだ。

 この結果はパラメータの数値の設定でいくらでも変化させることができる。また国内産業の競争力強化策を実施した場合の効果についても盛り込まれていない。極めて単純化された状況でのシミュレーションにしか過ぎず、これをもとに賛否を議論してもあまり意味はないのだ。

 TPPの問題は欧州各国におけるEU加盟問題と同じく、細かい金銭の損得勘定ではなく、定性的なメリット/デメリットという観点で捉えるべきものである。

 自由貿易を導入することは、一般に経済力の強い国に有利で弱い国に不利となる。経済力は貿易という現物によるものと、金融などのバーチャルなものに大別できる。
 米国はバーチャルな経済力はダントツの世界トップだが、現物の経済力は製造業の競争力低下で停滞が続いてきた。だが近年は米国企業の競争力が急激に強化されてきたことから、米国は全体の競争力に自信を持ってきている。以前は関心のなかったTPPに米が積極的になったのはそのような背景があるからだ。

 一方日本は、製造業を中心に競争力が急低下しており、現物経済での競争力は失われつつある。だが日本には1200兆円もの個人金融資産があり、本来であれば金融をベースにした経済力は米国に次ぐ水準になっていたはずだ。だが日本は金融市場の開放やグローバル化を基本的に拒否しており、その結果、金融をベースにした国際的な競争力は低いままだ。
 総合すると、現物経済、金融経済の両方が弱い状態で自由貿易交渉に参加していることになり、結果はおのずから見えている。だが政治的にはTPP参加はマストの状態となっており、選択肢はなかったというのが現実だろう。

 この事実をふまえれば、日本にとってTPP参加から得られるメリットは少なく、交渉は、日本にとってのマイナスをどれだけ回避することができるのかに注力すべきということになる。
 農業分野についてはある程度の例外条項が認められる可能性があるほか、国内対策を強化することで試算よりも影響を低く抑えることは可能と思われる。一方輸出の増加はあまり望めないだろう。日本が強みをもっている工業製品分野はすでに関税がかなり撤廃されており、TPPによるメリットよりも、日本企業の競争力低下による売り上げ減少が上回ってしまうからだ。

 本来成熟国家となった国は、米国、ドイツ、英国のように、高付加価値の製造業と金融でメシを食わなければならない。だが日本は痛みを伴う改革を嫌い、その両方を忌避してきた。TPPで厳しい環境に置かれることは、当然予測できることであり、しかもこれは日本人自身が選択してきた結果なのである。

 - 政治, 経済

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