中国漁船団襲来で注目を浴びる、AIS(船舶位置情報システム)界のGoogleは中国企業
尖閣諸島問題における日中対立である中国企業がちょっとした話題になっている。
9月16日、1000隻を超える漁船が一斉に尖閣諸島に向かうという報道があり、日本国内に緊張が走った。実際には1000隻の船が一斉に尖閣諸島に向かってわけではないようだが、様々な情報が錯綜した。
漁船団がどこにいるのかという根本的な疑問に対して、にわかに注目されたのがAIS(自動船舶識別装置)と呼ばれるシステム。これは、船に搭載した発信機から位置情報を発信し、どの船がどこにいるのかをという情報を共有するためのものである。
テロ対策を目的として、国際海事機関(IMO)が主導で2002年に国際条約が改正され、AIS搭載が盛り込まれた。日本では300トン以上の国際航海する船、500トン以上の国内航海する船に搭載が義務付けられている。海外でも多くの船舶がこれを搭載している。
この情報を集約してインターネット上で配信するサービスが存在しており、そのサービスに加入すれば、世界中の船の位置をリアルタイムで知ることができる。
この分野で断トツのシェアを誇っているのが中国のShipfinder社(本社:北京市、海淀区)である。いわば船舶位置情報サービスの世界におけるgoogleといってよい。
中国のTV局が漁船団がどこで操業しているのかを詳しく報道していたが、この時にも、同社のサービス画面が使われていた。ちなみに日本では、政府がAIS情報の独自収集は行っているが、データを公表していない。
安全保障に詳しい専門家は「中国企業にこのようなデータを牛耳られているのは好ましくない」という。ポイントは形式上は民間サービスであるということ。インターネットの世界ではシェアが高いサービスには情報が集中し、さらに高度な情報が集まってくるという特性がある。
市場原理を使った情報収集能力は、諜報機関の収集能力を凌駕することも珍しくない。
中国が商用でこのようなサービスを民間レベルで提供するのは、海運産業が安全保障上極めて重要であることを認識しているとともに、市場原理の恐ろしさも熟知しているから。
Googleはまさにその典型であり、世界中の諜報機関が同社のデータを欲しがっている。もしgoogleが情報を遮断したり、情報をコントロールしたら世界中が麻痺してしまう。
情報を握っていることは核兵器ほ保持にも匹敵するのだ。Shipfinderは当該分野においてそのようなポジションになりつつある。
政府組織だけが情報を集めるというスタンスでは、とうてい現代の情報戦争を勝ち抜くことはできない。日本にもこういった企業が続々登場するようでなければ、覇権を失うばかりである。だが役所の規制でがんじがらめの日本では、実現はかなり難しいかもしれない。
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